2022年度 Coffee Time Series 開催報告書

Coffee Time Series は、2020年度から活発に活動している歴史家ワークショップのシリーズ企画のうちのひとつです。このたびは、運営チームのみなさんに、2022年度に開催した各イベントについてレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載します。

Coffee Time Seriesは、気軽に研究の楽しさや研究にまつわる悩みを共有し助け合える場を作りたいという思いから始まったイベントシリーズです。一連のイベントを通じて、孤独になりがちな大学院生・研究者が分野を横断して集まること、またアカデミア内外の壁を越えて人間的なつながりを構築することを目標として、国内外の大学・研究機関に在籍する大学院生・ポスドクが中心となって運営しています。

2021年度に引き続き、2022年度は計3回のイベントを開催しました。今年度から新田さん、村山さんの二人が運営メンバーに加わり、コロナ禍における海外での研究活動やアカデミック・ハラスメントの予防と対応など、新たな関心に基づくイベントを開催することができました。

第9回「研究にまつわる悩み・望みの分かち合い(当事者ミーティング)」(2022年6月24日開催)

第9回として、第4回(2020年度)と第8回(2021年度・内部向け)に実施した「当事者ミーティング」を、Coffee Time Series運営メンバーと参加者が一緒に行ないました。「当事者ミーティング」とは、近い立場にある当事者間での問題解決や各自が実現したいことの手がかりとなる「次の一歩」を見つけるための対話型ワークショップです。この対話の手法は、歴史家ワークショップが以前開催した「セルフケア・ピアサポートWS」(2020年6月)にて、一般社団法人リヴオンさんからご紹介いただきました。「当事者ミーティング」では、3-5名程度のグループを作り、ファシリテーターの進行に従って、まず1名が自分の「気になっていること」や「困っていること」「実現したいこと」などを打ち明けます。それを受けて他のメンバーは、いろいろな質問をしてそのテーマの背景を掘り下げ、自分ごととして捉えたうえで、解決や実現に向けた自分なりのアイデアを出していきます。このとき、テーマを出した人はただただ聞いて、自分に必要なヒントを持ち帰ります。この一連の過程を通して、テーマを出した人もアイデアを出した人も、お互いの意見に積極的に耳を傾け合い、メンバー全員がそれぞれの問題解決・目標実現の手がかりを見つけることが「当事者ミーティング」の狙いなのです。

第4回では、参加者から「当事者ミーティング」に対するポジティブな反応・感想をいただき、企画者をはじめ運営メンバーにとって、定期的な実施に向けた動機となりました。その一方で、もともと対面形式で行なわれてきた「当事者ミーティング」をオンライン形式で実施するうえでの諸課題も浮き彫りとなったため、2021年度にはその改善を目指して、Coffee Time Series 運営メンバー間で試行錯誤を繰り返しました。その結果、第9回では「当事者ミーティング」の議論の様子を「見える化」する「グラファシシート」をはじめ、さまざまな新しいアイデアを活用することができました。他方で、「当事者ミーティング」の目的やプロセスについて、よりインクルーシブな環境作りが必要であることも明らかになりました。

これまでの成果を踏まえつつ、自分たちなりの「当事者ミーティング」のやり方を確立するため、今後も試行錯誤を続けていきたいと思います。(北川)

第10回「海外での研究活動:コロナ禍での留学、海外調査を通して」(2022年8月2日開催)

第10回は、「海外での研究活動:コロナ禍での留学、海外調査を通して」をテーマに開催しました。留学や調査など、海外での研究活動に関心があっても、そのための情報収集は簡単ではないのが現状です。イベントでは、ただでさえ情報収集が難しい海外での研究活動を、コロナ禍という先行きの見えない状況で実現させた三名の方々にご登壇いただきました。前半は座談会を行い、こちらが用意した質問に答えていただきました。後半では、参加登録の際に事前募集していた質問と、リアルタイムで受け付けた質問にお答えいただきました。

座談会ではまず、コロナ禍でも渡航に踏み切った理由や、滞在を続けた理由をお聞きしました。制度的な面や、渡航・帰国のメリット・デメリットなど、海外で研究活動を行なうかどうか、また、どこに行くかを決める際に、どのような要素を考慮すべきかの参考になりました。次に、コロナ禍での渡航・滞在にあたっての周囲の反応や、日本の所属大学、資金提供機関などの対応、その中で困ったことをうかがいました。基本的に周囲の反応は好意的なもので、反対されなかったとみなさん仰っていたのが少し意外でした。その一方で、コロナ禍の大学閉鎖や、国際的な物流ストップのために、必要以上に受け入れ先とのやりとりが長引いてしまったり、重要な書類が届かなかったりというトラブルがあったとのお話もありました。また、資金提供機関の判断が二転三転し、その対応が大変だったというお話も、印象深かったです。

それぞれが滞在された国独自のコロナ政策もお聞きしました。移動制限や対面授業の中止、参加予定だった研究会や学会のキャンセルなど、様々なネガティヴな影響があったそうです。その反面、史料のオンライン化がすすみ、普段は見られない貴重史料まで公開されるなど、ポジティヴな側面もあったことは学びになりました。また、お三方それぞれのストレス発散方法もお聞きしました。自分自身と向き合う時間や、オンライン上での人とのコミュニケーションを大切にされていた様子がうかがえました。

最後に、登壇者のみなさんから海外での研究活動を考えている方に向けて、一言ずつ頂きました。選択肢を多く持っておくことや、メリット・デメリットを比較しておくこと、日本開催や、オンラインで参加できる国際的なセミナーなどへ参加し、積極的につながりを作っておくことの重要性をお伝えいただきました。

参加者のみなさんからは、お三方の海外滞在のより詳しいお話や、日本の指導教員や家族のサポート、コロナ禍でどのように研究面・生活面のベンチマークを設定したかなどの質問が出ました。

イベント終了後のアンケートでは、「お三方の海外滞在の方法が、学位取得、長期の在外研究、研究調査など多様であり、滞在国も西欧、東欧、中東と幅広くて良かった」との感想を頂きました。他にも、「コロナ禍での滞在のメリット・デメリット、困ったこと、大変だったことまで踏み込んでお話ししてもらえたのが良かった」、という感想も頂きました。

情報が少なく、不透明なことも多い海外での研究活動について、何かヒントを提供できたならば嬉しく思います。ぜひ選択肢の一つに入れていただければ幸いです!(新田) 

第11回「アカデミック・ハラスメントの予防と対応」(2022年11月9日開催)

第11回は、「アカデミック・ハラスメントの予防と対応」をテーマにイベントを行いました。このイベントの目的は、アカデミック・ハラスメントの問題や現状について考えるだけでなく、悩みや経験を共有し分かち合い、研究者としてより生きやすい環境作りのためのヒントを得られる場を提供することです。

イベントの前半は、アカデミック・ハラスメント研究の第一線でご活躍されている北仲千里先生(広島大学)をゲストにお招きし、アカデミック・ハラスメントとは何か、アカデミック・ハラスメントが起こりにくい土壌を作るにはどうすればいいか、被害にあったときにできること、大学のハラスメントの現状についてお話いただきました。後半は Coffee Time Series 運営メンバーと希望される参加者の皆さんで当事者ミーティング(第9回の内容をご参照ください)を行いました。

北仲先生には、まず、歴史的な概念構築および、大学や研究の世界でのパワー・ハラスメントのことというアカデミック・ハラスメントの定義についてお話しいただきました。特にハラスメントと聞くと過度な干渉や要求をイメージしがちですが、ネグレクトもまたハラスメントの一つということを説明いただきました。また、被害にあった場合の、大学の相談窓口の使い方や、アサーティブネスについての知識を教えていただきました。アサーティブネスとは、相手からの言動の効果的なかわし方です。これについては参加者の関心が高く、質疑応答の時間にもいくつか質問が上がりました。さらに、自分自身が加害者にならないために、NG行動やネガティブなことを伝えるときの方法を教えていただきました。トークの最後には、第三者ができることとして、ハラスメント被害者に対する声かけの例を挙げていただきました。 

後半の「当事者ミーティング」では、2つのグループに分かれ、対話型ワークショップを行いました。グループワークを通じて、研究者としての悩みを共有し、それぞれが次のステップに進むためのヒントを得ることができたと思います。また、北仲先生のトーク後に当事者ミーティングを行ったことで、参加者が皆ハラスメントの知識を得た上でプログラムに参加できたのもよかったと思いました。

イベント後のアンケートでは、北仲先生のトークのなかでもとりわけ加害者にならないためにできることの部分が勉強になったという感想をいただきました。

今回のような、様々な立場にある人々が、安心して発言し、気軽に話し合えるオープンな場が確保されたハラスメント関連のイベントは、これまであまりなかったのではないかと思います。また、今回の企画が若手研究者主体で行われ、HW内でハラスメントに関する規定作りを促すことができた点も、とても意義があったと感じています。今回の企画をもとに、来年度以降もハラスメントに関する新たなイベントを行なっていきたいです。(村山)

総括

2022年度の Coffee Time Series では、以上3つのオンラインイベントを開催しました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大をきっかけに開始されたこのシリーズも、いよいよ4年目に入ろうとしています。大学生活や研究活動も徐々に再開されつつありますが、Coffee Time Series では2023年度も、研究生活の楽しさや悩み、ピアサポート、ライフプランやキャリアなど、さまざまなテーマのイベントを実施したいと考えています。

今後も、Coffee Time Series が気軽に悩みを共有できる支え合いの場として機能し、誰もが楽しく研究を続けていくことのできる環境作りに寄与できること、また、イベントを通してより多くの方とお会いし、つながりを作っていけることを願っています。

また、今後扱って欲しいテーマがある方や、Coffee Time Series の運営に参加したいとお考えの方は、こちらよりお気軽にご連絡ください。