Coffee Time Series は、2020年度から活発に活動している歴史家ワークショップのシリーズ企画のうちのひとつです。このたびは、運営チームのみなさんに、2021年度に開催した各イベントについてレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載します。
Coffee Time Seriesは、気軽に研究の楽しさや研究にまつわる悩みを共有し助け合える場を作りたいという思いから始まったイベントシリーズです。一連のイベントを通じて、孤独になりがちな大学院生・研究者が分野を横断して集まること、またアカデミア内外の壁を越えて人間的なつながりを構築することを目標として、国内外の博士課程に在籍する大学院生が中心となって運営しています。
2020年度に引き続き、2021年度も計4回のイベントを開催しました。今年度は新たな取り組みとして、第6・7回では参加者の理解補助を目的に、パワーポイントの字幕やリアルタイムでのパソコンノートテイクを導入し、よりインクルーシブな環境作りを目指しました。パンデミック下でオンラインでのイベントが増える中、それぞれの参加者が自分に合った情報共有の方法を選ぶことのできる手法を提示・実践することができたと思います。
第5回「あなたの研究を3分で」(2021年7月12日開催)
第5回は、「あなたの研究を3分で」をテーマに、大学院修士課程・博士課程在籍の院生、博士課程終了直後のアーリーキャリア、ならびに在野研究者8名を発表者に招き、25名の方が参加されました。イベントでは各発表者を2−3人ずつのパネルに分け、「3分で・簡単に・噛み砕いて」研究を発表してもらい、パネルごとに質疑応答を行いました。
普段、自分の周りの研究者(指導教員や専門の近い同僚)と自分の研究について話す機会はありますが、自分とバックグラウンドの異なる人に研究について語る場面は多くありません。しかし、例えば家族や友人に自分の行っている研究について短くわかりやすく話すことができれば、より興味を持って話を聞いてもらうことができ、研究の意義を理解してもらったりサポートを得やすくなるのではないかと考えます。歴史家ワークショップでは数年来Research Showcaseを開催していますし、東大を含む世界の大学ではThree Minutes Thesis(2021年度東大開催のイベントレポート)という試みが昨今行われています。今回はその日本語版をやってみようと考えました。
発表は16世紀のニュルンベルクから現代の日本まで時代的・地理的に幅広く、また歴史哲学や政治学の手法を取り入れたものもあるなど分野的にも様々なお話を伺うことができました。参加者の方々からは、「普段あまり聞くことのない他分野のお話がうかがえて楽しかった」という意見をいただきました。また、「次々の違う内容の発表を聞いて、その都度内容を咀嚼し、質問内容を短い時間でまとめるというのは頭の体操になってよかった」という感想も得られ、ただ発表者の方々のお話を聞くだけでなく、双方向的なコミュニケーションが生まれることとなりました。
専門分野を異にするさまざまなスピーカーの発表を聴く今回のイベントを通して、スピーカー・オーディエンスのみなさんにも、ご自身の研究の面白さをいかに聴衆に伝えるかについて、あらためて考えるきっかけになれば幸いです!(槙野)
第6回「研究者のライフプラン――留学・博論・育児」(2021年9月24日開催)
第6回では、「研究者のライフプラン――留学・博論・育児――」をテーマに、ドイツで博論を執筆しながら育児をされている纓田宗紀さん(西洋中世史・アーヘン工科大学)にご登壇いただき、38名の方が参加されました。
纓田さんには、家族形成や家族でのドイツ渡航などこれまでの決断の背景、一日のスケジュール・家事育児の分担など日常生活での工夫や葛藤、ドイツでの留学・子育て・資金獲得の状況、コロナ禍の影響など、さまざまな話題についてお話しいただきました。また、纓田さんのトークの後に、研究者のライフプランについて参加者でディスカッションする時間を設けました。
纓田さんのトークでは、まず、修士課程進学から現在に至るご経験について、奨学金の取得を含めた留学計画の話を交えつつ共有いただきました。次に、現在の生活費の支出入、日常生活のタイムスケジュール、パートナーとの家事の分担、結婚と子育てにまつわる決断、お子さんが生まれた後の研究に対する姿勢の変化などについて、赤裸々に体験談をお話しくださいました。最後に、子供と離れないと研究できない一方でパートナーに負担をかけたくないという生活の大変さや葛藤に言及されつつも、「子供はかわいいし研究は楽しい」、また「時間の融通が利き一人で作業できる人文研究者は子育てに向いていると考えることもできるかもしれない」というお話をされていたのが印象的でした。
ディスカッションでは、日々の研究や今後のキャリアプランと育児の折り合いの付け方、留学後の進路(日本かヨーロッパか)、育児や進学をめぐる偏った価値観などについて、活発に議論が交わされました。とくに、少人数のブレイクアウトディスカッションでは、育児に限らず研究者のライフプランというテーマについて、参加者の皆さんがプライベートなご経験談を積極的に共有してくださり、参加者同士で悩みを分かち合い、情報共有できる場となっていたと思います。事後アンケートでは「普段なかなか聞きたくても聞けない、研究者のパーソナルな領域のことを聞くことができる貴重な機会だった」「自分自身のライフプラン・キャリアパターンを再考するいい機会になった」「自分と似たような立場や境遇の方々とお話しでき、とても楽しかったし、励みにもなった」などの感想をいただきました。
Coffee Time Seriesでは、昨年度の第4回でも「研究と育児」を取り上げ、多くの参加者の方々から続編を開催してほしいというご要望をいただきました。今回はさらに間口を広げて研究者のライフプランをテーマとしたことで、より多様な立場の方々にご参加いただき、パーソナルな問題について深い議論をすることができました。人文学系の研究に携わっているという共通点を持つ中で、どのように他の参加者が自らの人生を選び取っているのか垣間見るとともに、自分はどのように行きたいか考える機会を提供できたと思います。研究者のライフプランに関する悩みや不安を少しでも軽くし、こんな考え方・選択肢もあるんだと思える場になっていたら幸いです。(大津谷)
第7回「研究と多様なキャリアプラン」(2022年1月28日開催)
第7回では、人文社会系の大学院修了後、あるいは在籍中に、編集者、リサーチ・アドミニストレーター、コンサルタントとして活躍されている三名の登壇者の方をお招きしました。
研究と社会との接続を大きなテーマとして掲げつつ、ご自身の研究と現在のお仕事との関係、研究と仕事との両立、アカデミア内外で活動して得た気づきなどについてお話しいただきました。特に、研究活動で培ったスキルはトランスファラブル・スキル(汎用的な技能)として現在のお仕事に活きているというお話は、大変勇気づけられました。例えば、一次・二次文献やデータの扱い方を知っていること、プレゼンテーション・分析をする能力があること、また、意外なところでWordやExcelなどのツールをしっかりと使えることは大きな強みになるとのご指摘がありました。その他にも、研究の進め方や慣行など、研究業界の仕組みに精通していること、特定の国・地域に関する知識を持っていることが仕事の役に立っているとのご経験談も伺いました。
参加者の方からは、多様なキャリアを歩むお三方からの体験談を聞けて良かった、自身のキャリアを形成する上での参考になった、などの感想をいただきました。
人文社会系の大学院を修了した場合、アカデミアでの就職を第一に検討する方が多く、それ以外のキャリアを歩まれた先輩のお話を伺う機会があまりないのが現状かと思います。今回のイベントを通じて、アカデミア内外のより多様なキャリアについて考えるきっかけを提供できたならば嬉しく思います。研究と社会とを接続しつつ、研究活動で培った知識や能力を活かしながら様々な職場で働くことが、人文社会系の大学院修了者にとってより一般的かつ前向きな選択肢となることを願っています!(赤﨑)
第8回「当事者ミーティング」(2021年9月2日、2022年2月18日、内部向け開催)
第8回として、昨年の第4回で実施した「当事者ミーティング」を、Coffee Time Series運営メンバーの間で2回行ないました。歴史家ワークショップが2020年6月に開催した「セルフケア・ピアサポートWS」にて、一般社団法人リヴオンさんからご紹介いただいた「当事者ミーティング」は、近い立場にある当事者間での問題解決や各自が実現したいことの手がかりとなる「次の一歩」を見つけるための対話型ワークショップです。3-5名程度のグループを作り、ファシリテーターの進行に従って、まず1名が自分の「気になっていること」や「困っていること」「実現したいこと」などを打ち明けます。それを受けて他のメンバーは、いろいろな質問をしてそのテーマの背景を掘り下げ、自分ごととして捉えたうえで、解決や実現に向けた自分なりのアイデアを出していきます。このとき、テーマを出した人はただただ聞いて、自分に必要なヒントを持ち帰ります。この一連の過程を通して、テーマを出した人もアイデアを出した人も、お互いの意見に積極的に耳を傾け合い、メンバー全員がそれぞれの問題解決・目標実現の手がかりを見つけることが「当事者ミーティング」の狙いなのです。
昨年度の「当事者ミーティング」では、参加者による積極的な質問・アイデア出しが行なわれ、研究へのプレッシャー軽減や他大学の院生・若手研究者と交流する機会になったというポジティブな感想をいただきました。その一方で、もともと対面形式で実施されてきた「当事者ミーティング」をオンラインで行なうにあたって、議論をどう「見える化」するか、場のグラウンドルールの設定・共有をどうするか、といった課題も明らかになりました。そこで今年度は、Coffee Time Series運営メンバー間でファシリテーション練習をしつつ、その中でさまざまな新しいアイデアを試しながら、課題解決とプロトタイピングに注力することにしました。今年度の試行錯誤の結果を生かして、2022年度には再び、外部の参加者にも開いた形で「当事者ミーティング」を開催する予定です。(北川)
総括・2022年度に向けて
2021年度のCoffee Time Seriesでは、以上4つのオンラインイベントを開催しました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大をきっかけに開始されたこのシリーズは、早くも3年目を迎えようとしています。2022年度は、新しい運営メンバーとアイデアを迎え入れて、引き続き研究生活の楽しさや悩み、ピアサポート、ライフプランやキャリアなど、さまざまなテーマのイベントを実施したいと考えています。今後も、Coffee Time Seriesが気軽に悩みを共有できる支え合いの場として機能し、誰もが楽しく研究を続けていくことのできる環境作りに寄与できること、また、イベントを通してより多くの方とお会いし、つながりを作っていけることを願っています。
今後扱って欲しいテーマがある方や、Coffee Time Seriesの運営に参加したいとお考えの方は、こちらよりお気軽にご連絡ください。