Skills Workshop

2017年9月24日「Skills Workshop: 国際学会へ行こう」開催レポート

 

1.企画概要・趣旨

 2017年9月24日、Historians’ Workshop「国際学会に行こう」を開催いたしました。新学期開始前後の日曜日の夕刻にもかかわらず、40人前後の参加者を得て、リラックスした雰囲気のなかで、活発な議論が交わされました。

 近年、日本の歴史研究者と海外の研究者との交流はますます盛んになり、外国語での論文執筆や海外の雑誌への投稿も、以前より身近になってきています。しかしながら、実際は言語や地理的な壁を感じたり、論文の書き方や、先行研究にズレを感じる方も少なくないようです。これらの多面的なギャップを乗り越え、外国語でも成果を発表するためのコツや注意点は何かなど、経験的な情報は必ずしも共有されていないように思われます。

 そこで、日本を拠点に海外と積極的に関わってきた4名の研究者のご協力を得て、本ワークショップを開催しました。「査読雑誌への投稿」に的を絞った前回に引き続き、今回はその前段階となる国際学会やシンポジウムでの発表を中心に、海外の研究者との協働、ネットワーキング、外国語での研究成果の公表について、ご経験に基づくお話を伺いました。

 

2.各登壇者による報告内容のまとめ

⑴ ランダオ・サマンサLandau Samantha 氏(比較文学/英米文学・昭和女子大学)

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 専門は比較文学とアメリカ研究です。日本の大学でPhDを取得しました。厳密には歴史学を専攻しているわけではありませんが、異なる分野の研究者同士の情報や経験を共有するのは大事だと考えています。

 国際学会に参加する準備について。学際的なカンファレンスにいくときは、どういう人が来るのかを知っておくことが重要です。

 国際学会の報告での注意点。自分と同じ分野で報告する場合はともかく、それよりも広い関連分野や異なるディシプリンの人々に報告する場合は、そうした研究者の問題意識に応えるような工夫を考えていきましょう。否定的な質問があった場合、どう反応するかは重要です。焦らずに、注意深く、慎重に答えましょう。そして、質問してくれた人にはあとで話しかけにいきましょう。

 海外学会での心構えはDon’t be shy. 母語でない地域や文献の研究を行う研究者の一人として、私も日本の学会で日本語での質疑応答をするのは簡単なことではありません。ですから、外国語の学術コミュニケーションの場でも恥ずかしがらず、積極的に質問してください。

 フォーマルな発表の場よりも、懇親会での会話の方が気軽にコミュニケーションを取れます。何百・何千人もの研究者が参加し、互いに顔を知らないわけですから、自分をとにかく知ってもらうことが重要です。食事の傍らで積極的に隣の研究者と話してみましょう。

⑵ 豊山亜希(近畿大学/インド美術史)

(※発表スライドはコチラ)

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 私は日本の大学で学位(インド美術史)を取得しました。国際学会に私が参加しようと考えはじめたのは博士課程に入ったくらいからでした。そもそも日本国内ではインド美術史といえば、一般的に仏教美術史を意味していたのですが、私の問題関心はそうした流れとは異なっていました。      

 博士後期課程に進学して1年後に英国留学しました。同じ分野で海外学振を取られた研究者の助言もあり、その分野の国際学会の存在を知りました。その後、再度、インドでフィールドワークを行う機会があり、その成果を国際学会で発表しようと決心しました。

 私が留学していた2000年代にアジア人によるアジア研究の国際学会の立ち上げが盛んになり、最初に英語報告を行ったのはタイにおいてでした。タイでは日本での発表経験があるテーマをベース(ジュンナル石窟研究)に報告しました。その後、インドでの研究の成果をイタリアでの国際学会で、また文化遺産をテーマとする学会でも報告し、いずれも活字論文として発表しました。

 

 学会発表から論文化・刊行への流れをどう作るかに関して、①論文集の刊行予定の有無の確認、②日本語雑誌との二重投稿にならないようにテーマや枠組を変更する工夫などがあります。

 関心共有や意見交換、ネットワーキングの場として国際学会には、PhDセッションやポスター報告からでも積極的に参加すべきです。また、国内/海外での研究スタイルや方法の違いに応じて、自らのポジショニングを考えていきましょう(誰に向けて書くのか?)。そのためにはまず、専攻分野に関してどんな国際学会があるのか、そして発表募集を定期的にチェックしていくことが必要です(例えばH-Net: Call for Papers)。また世界の同じ分野の研究者と交流することで、自分の研究の意義を再確認する機会になるでしょう。

 

⑶ 壽里竜(慶應義塾大学/西洋思想史)

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 国際学会の良い点は、長く国際的に活動していると論文を読んでくれる人が出てくるということです。しかし、悪い点は(私のようなタイプだと)何度、国際学会に参加しても英語での質疑応答やコミュニケーションには慣れないということです。

 学生時代、私は英語に特別自信があるわけでもありませんでした。人生初の国際学会の参加は28歳の時でした(@カナダ)。英会話そのものが完全にダメでした。他の参加者と会話をするにも、質問されると答えられないので、こちらから質問して会話のテーマを絞る戦略を取っていました。

 次のように無理のない形で段階的にステップアップしていくことが重要でしょう。

  • 第1レベル:国際学会へ参加して生きて帰ってくる。
  • 第2レベル:自分の報告をこなして質疑応答にも最低限答える。
  • 第3レベル:他人の報告に必ず質問する、知り合いを増やす。
  • 第4レベル:ペーパーにつなげられるような報告にする。

 参加→報告→出版、というように一気に坂を駆け上る方法もあります。しかし、毎年、または2年に一回、国際学会に参加するだけでも同じ分野の知り合いが増えていきます。すると、向こうから共同研究や論文集の執筆の依頼が降りてくることもあります。

 二重投稿禁止云々については、そもそも英語だけで書くことで問題を回避します。質疑応答では、英語の質問に(聞き返しても)答えられないこともあります。何度経験しても国際学会への参加はストレスの種ですが、修行だと考えています。

 国際学会で質問してくれた研究者、特に同じ世代の人に、自分のテーマに最適な投稿先を勧めてもらいましょう。メジャーではないが良い雑誌、査読から刊行が早い雑誌、そのほかインフォーマルな、ネットに載っていない情報を収集することが重要です。

 

⑷ 岡崎哲二(東京大学/日本経済史)

(※発表スライドはコチラ)

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 私は日本で経済史の分野で経済学博士の学位を取得し、その後国内の学会誌や単行書に論文を書いていました。ただ、経済史に経済学の概念や枠組を利用したスタイルで研究をしたいと考えてました。2002年からスタンフォード大学で客員教授として講義を行ったことが私にとって大きな刺激となり、研究者としての転機になりました。その頃から国際学術誌に論文を投稿するようになり、幸い、2005/6年に3本の論文が刊行されて、私の本格的な国際学界への参入が始まりました。

  • Explorations in Economic History, 42 (2005)
  • Journal of Economic History, 65 (4) (2005)
  • Economic History Review, 59 (2) (2006)

 トップレベルの国際学術誌では、専門性の高いレフリーからダブル・ブラインドで、厳格かつ有益なコメントが得られます。それだけにリジェクトされることも多いです。日本国内でキャリアを続けていくと、歳を重ねるにつれて日本の学界の中での地位が上がり、そこに安住してしまいがちです。しかし、国際学術誌に投稿し、厳しいコメントを受けることによって自身に謙虚になり、向上心を持ち続けることができます。私が若い頃と比べて、現在では日本の若い研究者が国際的な場で活躍するためのハードルは格段に低くなっています。国際的に活動している日本人研究者の増加、IT技術の向上、英文校正コストの低下など、環境は大きく改善されています。国際学術誌に論文を刊行するために王道はありません。すぐれた論文・書物をたくさん、しっかりと読み、そこから学びながら独自のアイディアを考え、研究に結実させることが肝要です。

 

3.質疑応答

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①寄稿論文集や雑誌の投稿の遅れ、どう刊行を催促するのか?

 出版を待たされている云々と関係者に質問すると、助成金の不足や出版のトラブルといった説明がされる。その場合は、ほかの研究や原稿に集中した方が良い。期間が決まっている研究プロジェクトへの参加もお勧め。

 2年近く待っても音沙汰なしという場合は多い。特に特集号のように本全体の調整が必要なものは時間がかかることもある。院生やポスドクのように業績を一早く稼ぐ必要がある者にとってはこうした問題は非常に深刻。

②論文投稿のリスクヘッジ

 1つの投稿先に100%の期待をかけないこと。早く論文を完成させるのではなく、60%くらいのものを作っておいて、複数の投稿候補先を確保することでリスクを分散する方法が良いのでは?投稿したとしても次年の掲載への期待はしすぎない。

 雑誌のエディターに待たされる場合、その上司や影響力ある関係者にアプローチを取ってみると良い。別ルートからの働きかけで事がうまく進むことがある(原稿ファイル紛失が発覚したりするなど)

③日本と英語圏その他での研究評価の違い

 若手研究者の評価について、日本では論文数が重視されるのに対して、英語圏ではリサーチ・プロポーザルや教育歴、フェローシップや奨学金の取得歴などで評価されることもある。

④遠隔地の研究者といかに共同研究を始めるか/行うか?

 海外の同じ分野の研究者には個別にアプローチを取ってみる。快諾してくれることは多い。共同研究では積極的にIT技術を活用しよう。メールにスカイプ、ハングアウト。DropboxやGoogle Docsでの文書共有。

⑤査読体制の違い

 英語圏雑誌ではダブル・ブラインド(日本では違う)。重要なのは誰がレフェリーかわからないという点。日本と海外の学術文化の違いによる誤読はあるが、時間をかけて査読してくれる以上、的外れのコメントであっても真摯に受け取って誤解を招かないよう改めよう。

⑥博士論文執筆中の注意

 欧米の大学院だと既発表論文よりも博士論文執筆を優先させられることが多い(論文投稿で博士課程に遅れが出るのを避けるため)。しかし「既発表論文を博士論文に加えてはいけない」というルールがない限りは、出版してもよいのでは。

 いずれにせよ、博論は出版可能なものをめざす以上、論文出版の経験は博論に大きく寄与するだろう。博士課程のうちは、国際学会で質問・コメントして多くの人に知ってもらうことを心がけよう。世界の研究者は新しい世代の院生のテーマや問題意識に大いに興味をもっている。

⑦資金の工面をどうするか?

 所属する組織の助成だけでなく、学会参加先のトラベルグラントや留学先の奨学金制度を調べてみよう。渡航費の助成に加えて滞在費、食費を負担してくれるところも多い。学術研究の国際化が進むにつれて充実度は上がってきている。

⑧国際学界の情報収集の工夫

 国際学会のチャンスを掴むには様々な方向にアンテナを張り、そうした環境を作ることが重要。専門分野のメーリングリストに投稿したり、学会のHPを確認したりするなどオンラインだけでなく、伝統的な学会誌の国際学会に関する短報も非常に有効。

⑨博士論文と国際学会参加の困難な並行

 国際発表と博論執筆にいかにエネルギーを配分していくか。早期就職に向けて学位論文に集中するという戦略もあるし、自分の最新研究の国際学界での共有を目指して並行させる戦略もある。分野や就職希望先によっても異なる。

⑩国際発表と国内発表のバランス

 研究発表はジョブマーケティングの側面があるので、特に研究スタンスが定まらぬ若いうちは両方でやった方がいい。日本で就職したければ、評価する人は日本語読者である以上、日本語でも一定量の論文を出すべき(誰に向けて書くか)。

 確かに、英語で書いた方が国際的な読者は増えるし、専門分野によっては外国語で書いた方が書きやすい場合も多い。しかし、日本で専攻する人が少ないような分野で日本語論文を書く場合は、日本の学会での意義を伝えられるような書き方にすべし。学問分野の文化の違いも考慮すべし。

 

4.参加者の感想・コメント

・対象・時代・分野が異なる多様性がよかった。

・学会参加のタイミング、参加の準備に何が必要かなど、具体的な体験談をきけてよかった。

・「出来なかった場合」「失敗した場合」の対策がためになった。

・楽しいディスカッションだった。ベテランの先生方が、多くの困難を克服してきたというプロセスを聴くことができ勇気づけられた。

・何のために国際学界で報告するのか考える機会になった。

・英語以外の国際学会についても知りたい。フランス・ドイツ・イタリアにおける事例など。

・英語圏の「日本研究」との付き合い方についても知りたい。

・国内/国外より、領域によって国際学会にも多様性がある。事例を増やしていく中で、他分野を比較するとよいかもしれない。

・日本人にとって留意すべき海外の制度・慣習、海外研究者との接し方も知りたい。

・前回も今回もおもしろく重要なテーマなので、1〜2年単位で繰り返してほしい。

 

5.トラベルグラント受賞者の声

 今回のワークショップでは、若手参加者のために交通費補助(トラベルグラント)を企画し、3名の応募者を受賞者として選びました。受賞者がワークショップ後に提出したレポートから抜粋して、彼らの声を紹介します。

 

岩瀬宏紀さん  (東北大学経済学研究科)

「トラベルグラントを得てワークショップに参加にしたことにより、私の研究観とモチベーションに大きな影響がありました。今後も、開催されることがあれば、積極的に足を運びたいです。国際学会での発表から海外ジャーナルへの投稿または本の出版まで、どういった戦略を取れば良いのかについて、経験豊富な研究者から学ばせていただきました。」

 

安士昌一郎さん  (法政大学イノベーション・マネジメント研究センター)

「具体的な発表経験を伺うことが出来たため、実感が湧きました。また苦心したことや、失敗からのリカバーについてもお話しいただけた為、勇気づけられました。また参加者の多くが国際学会での発表および投稿のご経験がおありだったようで、発表のみならず投稿や、投稿した後の対応も知ることが出来て、有益でした。」

 

吉川弘晃さん (京都大学文学研究科)

「様々なバックグラウンドを持った研究者から、国際学会へのデビューからネットワーキング、論文投稿までの一連の流れとその過程での豊富なエピソードを聞けたことが、大きな収穫であった。」「1度の参加から多くを得ようと期待しすぎるのではなく、段階的にハードルを上げていくことがコツであるという教訓を得られた。また国際学会でのネットワーキングは「長くこまめに」やっていくことが大事だと感じた。」

 

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6.おまけ

会場で行われた懇親会では、Historians’ Workshopが共催の形で関わっている二つのプロジェクトのプレゼンテーションも行われました!

RE. F. Workshop (主催:槙野翔 東京大学西洋史学博士課程1年)

Ref workshopポスター

Tokyo Digital History (主催:小風尚樹 東京大学西洋史学博士課程2年)

ToDHロゴ

(※Tokyo Digital HistoryのPreziによるプレゼンテーションはコチラ

関連ワークショップも盛り上がりを見せていますので、今後ともよろしくお願いします。

最後になりましたが、今回もご参加・ご協力くださったみなさま、ありがとうございました。みなさまのご意見も参考に、活動内容を練り上げていきたいと思います。またお会いできることを楽しみにしています!