第4回歴史家ワークショップ報告:Research Showcase (2016.11.30)

第4回ワークショップとして2016年11月30日に開催された Research Showcase では、東欧史、科学史、フランス史、中国史などの諸分野から6名のスピーカーが集まり、それぞれの研究テーマについて8分で発表して頂き、7分間のQ&Aを行いました。多くの発表者が初めて英語で発表をしたこともあり、新鮮みのある会になったと思います。当日は早稲田大学助教の正木慶介さん(イギリス政治史)が司会進行を行い、参加者は全体で約30名と主催者の予想を上回り、活発な議論につながりました。最後は名古屋市大准教授の横山先生が江戸時代の数学的リテラシーについてユニークなご発表をしてくださり、若手に一つのお手本を示してくださいました。

当日はオーディエンスによる投票により、博士号未取得者の中から、もっとも優秀な発表をしたスピーカーに Research Showcase Prize が授与されました。栄えある受賞者は、早田文蔵の分類学について発表をされた、東京大学大学院 科学史・科学哲学研究室博士課程1年の中尾 暁さんです。ともすれば難しいと思われがちな学説史研究を、中尾さんはスライドを効果的に使いつつ、明快に伝えておられました。専門を必ずしも共有しないオーディエンスにもご自身の研究の面白さを伝えられたことが、受賞の決め手となったようです。受賞者の発表は、報告終了後ワインを飲みながら慶應義塾大学の赤江雄一さん(西洋中世史)が執り行いました。

また、当日報告者に対し、アンケートを実施しました。以下、回答から内容を一部紹介します。

準備と発表を通して楽しめたこと、苦労したこと

楽しめたこと

  • フレンドリィな雰囲気のなか質疑応答ができ、質問を受けるのがうれしかった。
  • 短い発表時間でいかに「伝えるか」を考えるのが楽しかった。
  • 発表を通じて自分の研究のエッセンスを伝えるための工夫ができた。
  • 分野の異なる専門家のコメントを頂けるという貴重な機会を得られて良かった。

苦労したこと

  • 8分という短い時間の中で自分の言いたいことを伝えられるよう原稿を仕上げるのは苦労した。
  • 様々な分野の人が来ていることで、質問内容を予測することは困難だった。
  • 前提知識の乏しさやリスニング力の低さにより、他の人の発表を理解することが時に難しかった。

Research Showcase への参加が今後のキャリアと研究にどのように役にたちそうか (一部抜粋)

  • 「国際学会で発表したり、海外の学術誌に投稿したりするためのはじめの一歩になりました。Showcaseに参加したおかげで、それらを現実的な目標にしようという気持ちが生まれてきました。」
  • 「英語で原稿を書き、英語で報告することで、これまで見えてこなかった自分の研究の問題点が見えてきたことは、今後の役にたつと思います。」
  • 「本格的な英語での研究発表をする上での重要なステップになったと思います。また、原稿を事前に添削していただき、それを受けて考えたことは、今後の学会報告や論文執筆にも直結してくると思います。」
  • 「発表時間が短いからこそ、自分の研究のエッセンスが何であるかを再考する良い機会になりました。聴衆からの質問も含め、研究の進展への糧を得られたと感じます。」
  • 「修士1年という修士論文の全体方針を考える時点で報告したことで、自分の問題意識を違う分野の人に説明する良い機会となりました。それにより、自分が意識していなかった論理的欠陥や方針の修正の必要性を早期に察知できました。また、日本ではなかなか機会を作りにくい英語での貴重な発表機会を得ることができました。」

まとめ

プライズ受賞者は1人でしたが、6人全員のスピーカーが母国語でない言語で発表を準備し、また質疑応答や事前のフィードバックをとおして多くの学びを得ることが出来たのではないでしょうか。オーディエンスとして参加して下さった方の中には、今後スピーカーとして参加を希望する方も多く、これからは、本ワークショップの方法を歴史・人文科学の諸分野に応用するできるのではないかと期待しております。*こうした地道な活動をとおして我が国の歴史学・人文科学を少しでも盛り上げていくことができれば、歴史家ワークショップの運営者一同としては望外の喜びです。(山本・正木)

*2017年3月9日(木)には東京大学本郷キャンパスにてResearch Showcase in Medieval Studiesが、3月12日(日)には京都大学にてResearch Showcase in Kyotoが開催されますので、どうぞご参加ください。