【会の概要】
2020年8月31日(月)13時より、歴史家ワークショップは第二回 Early Career Conference(以下、本文中ではSECCと略記)を開催しました。
SECCでは、スピーカーとして国内外の研究機関と大学から6名の若手研究者に報告を依頼しました(当日のプログラムにつきましては、こちらをご参照ください)。また、報告とSECC全体に関するコメンテーターとして、同志社大学グローバル地域文化学部の水谷智先生をお招きしました。当日の司会進行は、東京大学大学院総合文化研究科の稲垣健太郎が担当しました。
【開催趣旨】
SECCは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大規模な学会のみならず、小・中規模の研究会等が全世界的に中止・延期を余儀なくされる状況下、企画・運営されました。本イベントの企画時点でも、オンラインに移行して学会や研究会が開催されています。こうした移行を一時的なものとしてのみ考えるのではなく、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアカデミアが直面している様々な変化の一環として捉えつつ、SECCの企画・運営が進められました。本カンファレンスの開催趣旨として、以下の2点を挙げることができます。
1. 上述のような困難な状況においても、国内外の大学・研究機関に所属する大学院生・若手研究者に研究報告の機会を提供すること。また、オンラインでの報告機会が今後増える可能性を考慮し、オンラインでの報告について学ぶ機会を用意すること。
2. 専門分野の知見を必ずしも共有しない、幅広いオーディエンスに向けて研究成果を伝えるにあたり、どのように報告内容を整理し、発表するか。また、報告に対していかに効果的に質問をするか。
英文校閲ワークショップや Research Showcase、2018年に開催された第一回 Early Career Conferenceなど、歴史家ワークショップがこれまで実施してきた試みと同様に、SECCも「幅広い読み手・聞き手に対してどのように研究の核心や新規性、独自性をわかりやすく伝えるか」という点を特に重視しました。
【発表とコメント】
SECCでの報告のテーマは、多様な地域と問題関心にわたりました。以下にそれぞれの報告の概略を示します。
- 20世紀の上海におけるアメリカ人宣教師の子どもたちが、異国の地でどのようにアイデンティティを形成したのかを、回顧録における食という側面から考察する。
- 第二次世界大戦後のアメリカにおける国際関係論の学問としての制度化とその背後に垣間見える意図を、ロックフェラー財団とアカデミアの関係に注目しながら明らかにする。
- 19世紀前半における阮朝の交易を、東南アジア海域史の文脈や西欧諸国との関係性から分析する。
- 11世紀のグラナダ王国ズィーリー朝君主アブドゥッラー・ブン・ブルッギーンの自伝を中心に、アラビア語文献史における自伝というジャンルやそれらに仮託された書き手の意図を考察する。
- 20世紀前半のチェコスロバキアにおける共産主義の拡大を、ソビエト連邦という外在的な要因によってではなく、チェコスロバキア内部の要因から分析・説明する。
- 20世紀のフランスにおける結婚広告の調査を通じて、パートナーに求める要素が即物的なものから非即物的なものへと変化していった、という仮説を検証する。
いずれの報告も、分析の視角や手法・資史料、そこから導かれる帰結の点で興味深いものでした。それぞれの報告者が、先行研究との関係から研究の独自性を打ち出し、研究がより広い文脈において有する含意 (implication) を示すことに成功していました。
報告後の質疑応答では、事実確認に止まらず、どのように研究をさらにより大きな知的文脈に位置付けるか、という点にも議論が及びました。
以上の報告を受けて、水谷先生からは、研究者のキャリアパスの様々な段階において、読み手や聞き手の反応を予想しながら研究成果を発信していくことの重要性、またキャリアのはやい段階で幅広いオーディエンスに向けた報告を意識する必要がある、というコメントをいただきました。
【おわりに】
SECCは、今年度実施されている歴史家ワークショップの他のイベントと同様に、オンラインで開催されました。オンラインでの国際的な学会の企画・運営という経験は、運営に当たった私たちにとっても初の試みとなりました。オンライン開催に伴い、日本のみならず、ヨーロッパやアジアから、合計20人ほどの皆さまにご参加いただきました。
報告を伺い、質疑応答に参加するなかで、私自身が幅広いオーディエンスに向けて報告をする際にどのように情報を整理するか、オンラインで自身の主張を伝える際に、内容的な面のみならず、伝達の方法をどのように工夫するか、という点を考えるきっかけになりました。また、短い時間のなかで、建設的な質問をすることを意識しながら、今後のカンファレンスや学会に臨みたいと感じました。
報告者からは、議論を整理するだけでなく、スライドをどのように効果的に作成するかについても考える機会になったという感想をいただきました。
【謝辞】
末筆ながら、今回のSECCの開催に当たってご協力いただいた共同企画者と歴史家ワークショップの皆さま、CfPとカンファレンスの告知に際してご協力いただいた皆さま、ご多忙のなかコメンテーターを引き受けてくださった水谷先生、そしてご参加下さった皆さまに感謝いたします。ありがとうございました。
稲垣健太郎