「スライド道場」開催レポート

去る2020年5月11日および18日に、スキル・ワークショップ「スライド道場」をオンラインで開催し、おかげさまで非常な好評を博しました。参加者の一人であった山田智輝さん(京都大学・博士課程)に本イベントのレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載いたします。

開催趣旨

議論の内容や妥当性が問題となる学術発表において、それを補助する視覚資料そのものの出来が問われることはほとんどないでしょう。そうした理由もあって、従来、学会での発表にさいしてどのようにスライドをつくるべきなのかは、公の場で体系的に伝えられることはまれで、おおむね個々人の裁量にゆだねられてきたといえるでしょう。

しかし実際には、スライドは発表の質を向上させるための要素として重要な役割を担っています。そこで、スライドの作成について話しあい、そのポイントやテクニックを可視化かつ共有する場として、本ワークショップが企画・開催されました。ここでの目的は、ともすれば多くの情報をひとつのスライドに詰め込んでしまいがちな歴史学分野の研究発表について、どのようにスライドを作成すれば効果的で、よりわかりやすく説得的に聴衆へ内容を伝えられるのかを考えることでした。そのためにも、本会特任研究員の古川萌氏がファシリテーターを務めたのにくわえて、ゲスト講師として竹中技術研究所の今西美音子氏を招聘することにより、歴史学以外を専門とする研究者の視点もとりいれつつ、よりクリアなスライドづくりについて議論しました。

【第1回】スライドづくりの基礎を学ぶ

11日の第1回は、古川・今西両氏をふくめて23名が参加しました。そこでは、今西氏やそのほかの参加者が実際に過去の研究発表の場で用いたスライドを参考資料としながら、スライドづくりの基礎について学びました。

はじめに、どのような役割をスライドに担わせるかに応じて何を記載する必要があるのかを決定していくことや、図表や見出しにくわえ、関係性・構造・性質あるいは数量といった情報を提示するのにスライドは適していることなど、スライドづくりの考え方について今西氏がレクチャーをおこないました。

つづいて、そうした考え方にもとづき、どのようにスライドを作成すればよいのか、具体的なテクニックについて話しあいました。まず推奨されたのは、自分自身のテンプレートを「育てる」ということでした。すなわちそれは、スライド作成アプリケーションにある既存のテンプレート機能をアレンジしたり、自分でゼロからテンプレートをつくってみたりし、さらにその用いたテンプレートを一度きりのものに終わらせずにくりかえし使いながら、そのたびごとに改良していくというものです。

また、紙面づかいや配色、文字の書体やフォントサイズ、ヘッダーやフッターといった機能などにかんして、どのようにすれば聴衆にとって親切なのかを話しあいました。そして、スライド全体の粒度、エッヂや比率等を統一したり、おなじレベルの情報はおなじ見た目にしたりすることなどの重要性を学びました。

【第2回】実践を通してより具体的に学ぶ

18日の第2回には、19名が参加しました。はじめに、前回の補足として、パワーポイントのテンプレート機能の使い方についての詳細な紹介が古川氏からなされました。それにつづいて、前回の内容をふまえて3名の参加者が事前に作成したスライドについて、参加者が作成時の意図を説明したのち、今西氏が考慮すべきポイントや改善できる箇所についてアドバイスをおこないました。

おもに話しあわれたのは、図や配色、年表やキャプションについて考慮・工夫すべき点についてでした。具体的に論点となったのは、どんな聴衆にとっても一目で把握しやすくするために、ユニバーサルデザインに則った色使いを心がけることや、各スライドのデザインを統一したり、行間を調整するなどして、ひとつのオブジェクトをひとつのかたまりにみせたりすることの重要性でした。さらには、アニメーションやドロップシャドウの使い方とその工夫についても詳細な紹介がなされました。

少しの工夫で発表の質を上げよう

以上のように、今回のワークショップでは、ひとりではなかなか気づくことのできないスライドづくりの知や技術を、可視化・共有することができました。多くの人はこれまでしばしば、感覚的な見た目に頼ってスライドを作成してきたのではないでしょうか。しかしそうではなく、理論をもとにデザインすることで、それがたとえほんの少しの工夫であっても、スライドがずいぶんとクリアでわかりやすいものになり、ひいてはそれが発表の質の向上につながることを本ワークショップでは体験できました。とくに、非常に緻密な数値や計算にもとづいた、今西氏のスライド作成理論・技術は瞠目すべきものでした。

また、テンプレートを育てていくことによって毎回のスライド作成にかかる時間を短縮できるため、また、スライドの完成度を高めてクリアにすることによって口頭で説明しなければならない事柄が少なくなるため、その分だけ発表の内容・議論そのものへより注力できる、という同氏の言葉も印象的でした。

参加者の声

ほかの参加者の方々からは、「スライド道場」の参加後のアンケートにおいて、以下のようなコメントをいただいています。

  • 講師の今西さんと参加者の方のスライドを見て、自分のスライドを客観的に見ることができた。私はMacとWindows の両方を使用しているので、Keynote とパワポの両方について知ることが出来て良かった。テンプレートを自分で育てるという発想すら無かったが、年表は必須となるので、作成してみたいと思う。ヘッダーや色の使い方も実践できて良かった。(教員・実践を含むワークショップに参加)
  • パワーポイントに限らず、レジュメにも応用可能な知識を多く教えていただけて、非常に参考になりました。自分が使う記号にルールを設けるというアイデアは早速導入させていただいてます。導入してみると思ったより時短に繋がっているなという実感があります。これまでどこでも教わったことのない知識ばかりだったので、大変刺激的な会でした。(大学院生・聴講のみで参加)
  • テンプレを自分で育てていくなど、その場その場のテクニック以外のことも知れてよかった。「魅せる」スライドは、やはり時間をかけて作るものだと再確認できたので、これから重要な発表の時は、スライドの作成などの見せ方にも拘りたい。(大学院生・聴講のみで参加)

また、遠隔地からの参加も可能となるオンライン開催で良かったというコメントも多数いただきました。

歴史家ワークショップは、歴史研究にかんするイベントの開催を今後もつづけていきたいと考えています。アイデアをおもちの方はぜひ、運営委員に直接、あるいは rekishika.workshop[at]gmail.com にご連絡いただけますと幸いです。