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「バズる(?)アウトリーチのすすめ―公益性のある情報発信に向けて」開催レポート

2019年7月22日に開催したイベント「バズる(?)アウトリーチのすすめ―公益性のある情報発信に向けて」の開催レポートをお届けします。 

趣旨と登壇者の紹介については過去の投稿をご覧ください。
2019年7月22日「バズる(?)アウトリーチのすすめ―公益性のある情報発信に向けて」開催のお知らせ
 

各登壇者の講演

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今回はHistorians’ Workshop初の試みとして、講演内容を動画に収めてみました。
動画編集は広島大学D1の北川涼太さんが担当してくれました。(北川くん、本当にありがとう!)
以下、講演内容の重要トピックを箇条書きで列挙しています。気になるトピックがあれば是非動画の方で詳細を確認してみてくださいね!
 

北村先生の講演「ワイルドならどうする?」


・批評家としての北村先生とTwitter
 オスカー・ワイルド:批評=芸術
 ワイルドなら絶対にTwitterをやるはず…。
 ワイルドみたいに書きたい!Get Wilde!
・ウィキペディア英日翻訳活動
・自身の英語力を活かした社会貢献として
・授業で学生に翻訳を実践してもらう「英日翻訳ウィキペディアン養成プロジェクト」
・多数の団体・メディアから取材を受けるように
・信頼と継続がバズを生む
 原稿は絶対に落とさない!
 

古川先生の講演「美術展覧会に合わせたアウトリーチ」


・展覧会の情報不足を補うものとして、美術展に合わせたアウトリーチ活動を開始
・イラスト入りパンフレットの配布・展覧会ツーの企画
 →団体で動く難しさ/大声は出せない/参加者の層が首都圏に限定
・ネットプリントを活用
 →全国の人がガイドを楽しめるように
・団体との共催で規模アップ
・情報発信とリスク管理
・込み入った説明にTwitterは向いてない(誤解を生みがちに…)
・長文はブログで発信
・原稿の下読み依頼や下書き保存の活用で不必要な炎上を回避
 

丸尾氏の講演「ちょっと輝きが足りない『鈍重な自己啓発』のすすめ」


・バズる記事の共通点(田野大輔先生の記事を例に)
 1)新事実(「ナチスの体験授業」という突飛さ)
 2)新解釈(「全体主義は容易である」)
 3)実存に根差した共感(「自分もこうなり得る」「身近にも全体主義の萌芽があるかも」)
 ≒鈍重で持続可能な自己啓発
・「実存に根差した共感」から、読者が自らの環境を操作可能・変更可能なものとして認識できるように…アウトリーチの公益性
・たぶん編集者はめっちゃTwitter見てる(からどんどんツイートして!)
・情報発信において、一番大事なのは覚悟では?
 

質疑応答

質疑応答は、参加者の皆さんのおかげで非常に活発なものとなりました!

Q. アウトリーチの意義、若手がすることの意義
A. 専門分野を残すために良き受容者を育てたい。教養よりのコンテンツを潰そうとする人がいるが、そういう人はそのコンテンツが流行っていることに気づいていない。可視化が重要。
A. そもそもアウトリーチを活発化する必要があるか解らない。自分の場合は専門分野を愛する気持ち、専門外の人々に自分が面白いと思うものを布教したい気持ちが強かったからアウトリーチを始めた。愛が持たれていない分野は自然淘汰されると思う。
A. アウトリーチが評価される空気を醸成していきたい。

Q. どのような研究者がアウトリーチ向きか
A. 一般向けの文章が書ける人。アカデミアと社会を分断しないバランス感覚が必要。
A. 研究者本人が面白い人かどうか。
A. 〆切が増えることを考えると1日にたくさん書くのが好きな人。

Q. どう炎上やクソリプに対応しているのか
A. (クソリプラーをブロックすることなく真面目に対応することについて)相手に伝わるかではなく、TLを見ている学生に「やな事言われたら言い返していいんだ」と伝えるため、あえてまともに反応している。「反論することは寧ろカッコいいじゃん」という空気を作りたい。
A. そもそも意見を表明するタイプのツイートをしないようにする。ブログ記事については間接的批判はありうるが、直接リプは少ないのでスルーできるしスルーする。

Q. アカデミズムは「バズ」とどう関係すべきか
A. 人々が関心を持っていることがバズるわけで、アカデミズムは「バズ」トピックについて学会をやるべき。テレビが生んだバズについても、学会がすぐにセミナーや雑誌の特集を組むのが望ましい。ただ学会に「目利き」がいないとこれらは実現しえない。
(例)TOKIOを知らないとTOKIOが発端のバズはアカデミックなことであれ学問に繋げ得ない
A. とはいえ若手が以上の活動を大きな学会に提案するのは難しい。オンライン上に流行に聡い研究者が集まれる場があればいいのだが。
A. ウェブ媒体で記事にすること自体がバズのフォローである。ウェブでは同じことが繰り返し議論される傾向があるので、ウェブ記事が何度も参照されるストックとして機能しうる。

Q. 意図した層とは違うファン(ノイジーマイノリティなど)が発生して、その結果、優良なファンがいなくなってしまうこともありえると思う。セルフブランディングって成功しているか?
A. ターゲッティング自体に違和感ある。ターゲティングをすると内輪になりやすい。それよりかは訳が分からない人がいた方がよい。今の社会の問題が内輪化にあるので、もっとマスに届いて欲しいと考えている。
A. >ファンが欲しくてやってるわけではない。強いて言えば高校生や学生に見てもらいたい。女性研究者にたいし、顔が出たとたんに猥褻な画像を送ってくる人がいるが、それはセキュリティ案件にするしかない。

Q. 自ら主体的に発信してこなかったSNS初心者へのアドバイスもお願いしたい。
A. 全員がSNSでアウトリーチを行う必要はない。書いた論文を再利用可能な形でウェブに出すだけで十分意義がある。利用可能な形でウェブ上に論文があれば、他人がそれを拾って記事を書くことも出来る。また、ciniiから論文本体が手に入れば編集者がそれをもとに記事依頼を送ることもできる。
A. 編集者にはウォッチャーが多い。専門書と現代社会の繋がりを示すような読書日記やツイートがきっかけでアウトリーチが生まれることもある。
A. 数人グループでのアウトリーチも可能。得意分野によるタスクの分担ができる、個人の見解を相対化したうえで発信することも可能。
 

参加者の反応

最後に、参加者の皆さんのご意見・ご感想を紹介したいと思います!
まずはアンケート結果から↓

・北村先生がきっかけで文学研究に関心をもち、映画や演劇を批評する楽しさを知った。もともと海外作品の需要層を広げ日本に紹介される作品が増やすことに関心があったため、今回アウトリーチについてお話を拝聴出来て良かった。
・おそらく自分より10~15才若い研究者・出版関係者が、自分とは異なる情報空間のなかで何を考えどんなことをしているのか具体的に分かったのが非常に面白かった。自分が大学院生だった頃よりもアカデミアは社会に近く、いままでに様々な試みがあったのだろう、と実感することができた。一方、炎上への(過剰な)危機意識の高さも感じた。昔は炎上してナンボくらいだったような気がする。
・今回のイベントを通じてアウトリーチのノウハウや心構えなどを学ぶことが出来、非常にためになった。特に、研究者と編集者の2つ立場から話を聞けたのが良かった。このイベントの続編があれば是非参加したい。ライブ配信などでもっと公開されるといい。
・とても刺激的で勉強になり楽しかった。アカデミアと一般をつなぐ、まさに今問われているアクチュアルなテーマでとてもわくわくした。また、活発なディスカッションが出来てよかった。時間配分なども含めとても纏まりが良かった。
・自己流でアウトリーチを行うと独善的になりがちで、炎上のリスクも大きい。今回、第一人者の先生方からノウハウを伺えたのが良かった(特に教員として安心した)。個人的には丸尾氏が仰るところの「覚悟」を持つのに疲れた節がある。
・アウトリーチ自体について多角的に考えることが出来て良かった。
・なかには慎重な発言もあったが、若い人に手放しで勧められるのかが気になった。主張や議論が粗くなりがちなので、専門家としての評価が定まらないうちはリスクもあるのではないか。

今回、「#バズるアウトリーチ」のハッシュタグをつけて、Twitter上でも皆さんからご意見を頂戴しました。
そのツイートをTogetterの方にまとめています。そちらも是非ご覧ください!
https://togetter.com/li/1379599
 

おわりに

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文系学問への風当たり、社会との溝、情報化社会に埋もれる良質な知、ベテラン研究者との世代間ギャップ…こうしたことへの危機感から、アウトリーチの意義や学術の社会への繋ぎ方を考える場を若手主導で設けたいと、今回のイベントを企画しました。
単に「文科省が推奨するからやる」のではなく、「先輩方に牽制されるからやらない」のでもなく、まず自分たちで考えなくてはならないだろうと。

今回のイベントを通じて、登壇者のお三方からフロアの皆さんまで、たくさんの方々から多様な意見を聞くことができ、企画者自身としましては、今後の活動のヴィジョンを以前よりずっと明確にできたと思っています。ご参加くださった皆さん・今これを読んでくださっている皆さんもそうであれば、企画者として嬉しい限りです。

また、上記の通り企画の動機は危機感によるものでしたが、皆さんの意見を聞く中で、自分の意見を主張したい、専門を活かしたい、好きで究めてきたものを知ってほしいといった純粋でポジティヴな意欲の大切さにも改めて気づかされました。
自分も楽しく受け手も楽しい――そんな理想的なアウトリーチの形を目指したいものです。

ありがたいことに、第2弾を期待する声もちらほらいただいています。
今回のイベントでは、質の問題についてあまり掘り下げられなかったと思うので、それについてやるのが一つかなと思っています。
丸尾さんの講演でも触れられていた、情報を「残念なもの」にしない努力や、アンケートにもあらわれている、若手の未熟さからくる質への懸念については、こういったイベントの場でこそ深く検討すべき点だと思います。
他にも、テーマや登壇者について希望があれば、是非運営委員までお聞かせください!

最後になりましたが、今回の登壇依頼を快く引き受けてくださり、有益な情報を提供してくださった登壇者のお三方、平日にも関わらず会場まで足を運び、活発に議論してくださった参加者の皆さま、円滑な運営をサポートしてくださったHistorians’ Workshop内外の全ての方々に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました!