2018年5月12日に開催された、第117回人文科学とコンピュータ研究会発表会にて、Tokyo Digital Historyの取り組みが学生奨励賞を受賞しました!
当日のポスター発表の様子をお伝えします!
小風尚樹・中村覚・清原和之・山王綾乃・纓田宗紀・小林拓実
「歴史研究者・アーキビスト・エンジニアの学際的協働に基づくコミュニティ構築:Tokyo Digital Historyを事例に」
当日は、Tokyo Digital History代表の小風尚樹が筆頭著者として、ポスターの作成、メインの発表を担当しました。Tokyo Digital Historyの運営メンバーは、発表者以外にも多くいますが、今回はこれまで中心的にコミュニティ・マネジメントに携わってきたメンバーによる発表、という形式を取りました。
そもそも「人文科学とコンピュータ研究会」(IPSJ SIG Computers and the Humanities) は、 情報処理学会の研究会のひとつで、情報技術を活用した人文科学分野の研究や人文科学に関連する情報資源の記録、蓄積、提供を推進しています(ホームページも参照)。
Tokyo Digital Historyは、2018年4月にシンポジウムを開催し、参加者90人を超える大きな盛り上がりを見せることができました。
その開催報告は、東京大学学術機関リポジトリにて公開されています(リンク先を参照)。
しかし、ポスター発表では、シンポジウムの開催報告だけでなく、コミュニティ構築の背景、このシンポジウムに至るまでの半年間の活動成果の総括、今後の活動展開を示しました。以下、発表の概要を記しておきたいと思います。
コミュニティ構築の背景
近年、アメリカをはじめとする欧米の学界では、デジタル・ヒストリー(デジタル技術を活用した歴史研究)の実践例が豊富に蓄積されてきています。2015年にはアメリカ歴史学協会が、そのようなデジタル・ヒストリーの研究成果をどのように評価するか、より具体的には、歴史学のテニュア職の審査にあたってデジタル・ヒストリーの実践を評価する枠組みをどのように構築すれば良いか、という点に関するガイドラインが提案されました(英語版、日本語訳版はそれぞれリンク先を参照)。
これに対し日本国内では、歴史研究のために構築されてきている研究基盤としてのデジタル・アーカイブの量に比べて、デジタル・ヒストリーの実践例は少ないと言わざるを得ません。よく指摘されるように、オンライン上の史資料を歴史研究に活用するには、慎重な姿勢が要求されています(菊池信彦氏による『人文情報学月報』の論考も参照のこと)。
そこでTokyo Digital Historyが目指しているのは、デジタル・ヒストリーの実践にあたって、「具体的に」どのような点に留意する必要があるか、オンライン上の史資料データの活用例にはどのようなものがあるか、といった点を大学院生を中心とする若手研究者が実践例を示すことです。
アプローチと具体的な成果
上記のような問題意識を背景として、Tokyo Digital Historyは大きく分けて3つの活動を行ってきました。
デジタル・ヒストリーの実践者を増やすための仕掛けを考え、企画の準備をすること
- 2017年9月から現在に至るまで、毎週グループワークを実施
デジタル・ヒストリー関連の技術・知識を習得する勉強会を開催すること
- 2017年11月に開催したTokyo Digital Historyアイディアソン
- 2017年12月に開催したTokyo Digital Historyワークショップ
- 2017年9~12月に計12回開催した「歴史研究者のためのPython勉強会」
- 2018年2月に開催した「歴史研究者のためのTEI入門セミナー」
一定期間の活動成果を大規模に公開し、学界での認知を高めること
- 2018年4月に開催した「2018 Spring Tokyo Digital History Symposium」
今後の展開
デジタル・ヒストリーの実践例を増やすということは、これまでの歴史研究の成果とも十分に対話する必要があります。「デジタル」という接頭辞が特別な意味を持たなくなるほど、歴史学の研究手法にデジタル技術が採用されることが当たり前になるように、Tokyo Digital Historyは主体的に行動を起こしていきたいと考えています。
そこで、ゆくゆくは研究会という組織に発展させていくために、中期的な目標としては、大きく分けて3つの活動を展開していくつもりです。
歴史系・Digital Humanities(DH)系双方の学会において、研究発表を積極的に行う
- Tokyo Digital Historyは、2018年9月に東京で開催されるDH系の国際学会TEIカンファレンスにて、パネル報告を行うことがすでに決定しました。他にも予定している動きはいくつかありますが、引き続き成果発表を行っていきます。
デジタル・ヒストリー関連のイベントを始めとするアウトリーチ活動
- プログラミング研究会や関連セミナー、シンポジウムを継続的に開催します。
国内外の歴史研究基盤構築プロジェクトとの協働
- デジタル・ヒストリーの実践には、歴史研究者が学術データを活用するだけでなく、その活用から得られた気づきを、データ提供者側にフィードバックすることも非常に重要です。現段階では、次に挙げるようなプロジェクトとの協働が動き始めています。
- Regesta Imperii Online(西洋中世史研究における最大級のデータベース)
- 国立歴史民俗博物館総合資料学研究センター
- 渋沢栄一記念財団情報資源センター
- 石見銀山世界遺産センター
- 『百科全書』・啓蒙研究会
おわりに
今後、Tokyo Digital Historyが活動を展開していくにあたって、今回「人文科学とコンピュータ研究会」で学生奨励賞を受賞できたことは、運営メンバーにとって非常に糧になるものでした。
とは言え、まだまだこれから発展していくコミュニティですので、さまざまな形でのサポート・アドバイスをいただければと思います。
Tokyo Digital Historyの取り組みに共鳴してくださる方、運営に興味を抱いてくださる方、ぜひご連絡をいただければ幸いです。お待ちしております。
email: tokyodigitalhistory@gmail.com
twitter: @DHistory_Tokyo
よろしくお願いいたします。
(下の写真は、ポスター発表者のうち、代表の小風尚樹、中村覚、山王綾乃)