2024年度 Coffee Time Series 開催報告書

Coffee Time Series は、2020年度から活発に活動している歴史家ワークショップのシリーズ企画のうちのひとつです。このたびは、運営チームのみなさんに、2024年度に開催した各イベントについてレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載します。

Coffee Time Seriesは、気軽に研究の楽しさや研究にまつわる悩みを共有し助け合える場を作りたいという思いから始まったイベントシリーズです。一連のイベントを通じて、孤独になりがちな大学院生・研究者が分野を横断して集まること、またアカデミア内外の壁を越えて人間的なつながりを構築することを目標として、国内外の大学・研究機関に在籍する大学院生や若手研究者を中心に、様々な立場のメンバーにより運営されています。

2023年度に引き続き、2024年度は計3回のイベントを開催しました。

第14回「研究と保活—保育園探しの問題と工夫」(2024年6月28日開催)

第14回では、「研究と保活—保育園探しの問題と工夫」と題して、東京藝術大学特任助教の大杉千尋さん(西洋美術史)をゲストスピーカーとしてお招きしました。

16、17世紀ドイツ美術史を専門とする大杉さんは、博士課程在学時にお子さんを出産され、子育てをしながら博士号を取得し、2023年には著書『グリューネヴァルト〈イーゼンハイム祭壇画〉への誘い』(教育評論社)も出版されました。大杉さんご自身は現在、東京芸術大学で特任助教として勤務されていますが、フルタイム雇用ではない大学院生・研究者が保育園を利用しようとする場合、現行の制度では不利な状況に置かれてしまう傾向にあります。大杉さんには、ご自身の保活(保育園探し・利用申請)や学童保育利用の経験にもとづいて、現行の保育園制度の状況、博士課程在学時に保育園の利用申請をするために用意したこと、保育園と交渉する際の方法などを具体的にお話しいただきました。

参加者のなかには、乳幼児を育てている研究者、出産予定の研究者、今後家族形成を考える大学院生なども含まれていました。質疑応答では、保育園選びのポイント、保活の際の非常勤先との折衝、保育園に入れなかったときの対応策、通称名の使用など、さまざまな実践的な事柄が話題にあがりました。

イベント後のアンケートでは、「保活にあたってスケジュール、準備しておくべきことなど具体的に知ることができた」、「他の人にとって応用可能な具体性のある内容であったところがよかった」、「保活だけでなく、保育園に入れた後のお話をいただけたのが、とても参考になった」といった意見をいただきました。(纓田)

【参加者募集】オンラインミートアップシリーズ Coffee Time Series 第14回「研究と保活:保育園探しの問題と工夫」6/28(金)15:00-
2024年6月28日(金)日本時間15時から、歴史家ワークショップ主催のオンラインミートアップシリーズ“Coffee Time Series”の第14回を開催し…
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第15回「Youはなぜ博士課程へ!?~文系の就活と進学~」(2024年9月3日開催)

第15回は、「Youはなぜ博士課程へ!?~文系の就活と進学~」をテーマに開催しました。

文系博士課程進学は「就職がしづらい」「資金面での不安がつきまとう」「どのような研究活動をしているのかよくわからない」など、否定的な側面とともに語られがちです。そのうえ、進学を考えるにあたって検討材料となる情報も入手しづらい傾向にあります。イベントでは、民間企業や教職での内定を獲得したうえで、文系博士課程に進学された2名の方をゲストにお招きしました。前半は鼎談会を行い、こちらが用意した質問に答えていただきました。後半は、参加登録の際に事前募集していた質問と、リアルタイムで受け付けた質問にお答えいただきました。

鼎談会ではまず、修士課程に進学すると決めた理由、修士課程に進学した時点で考えていたキャリアについてお聞きしました。お二人ともそれぞれ違う理由で修士課程への進学を決めていたものの、研究を続けたいという気持ちが共通していたように思います。

その後、就職活動を始めた経緯や、研究との両立の仕方をお話ししていただきました。お二人とも、ご自身の性格や集中できる方法をよく理解し、優先順位を明確につけて、周囲の人の助けも借りながらうまく両立されていた印象を受けました。特に、就職活動の面接でゼミでの議論の蓄積が評価されたと感じたというエピソードは興味深かったです。

博士課程進学を考えるにあたっての具体的な不安は、研究能力と資金面が挙げられました。どのように情報収集し、いつごろどのような内容の資金を獲得したのかを詳しくお話ししてくださったので、参加者のみなさんにとっても有益な情報となったのではないかと思います。最終的に博士課程への進学を決めた理由でも、研究とそれに付随する活動へのモチベーションを大前提に、資金が獲得できたことによって安心して挑戦できるようになったことが大きいとお話を聞いていて感じました。

最後に、実際に博士課程1年目の前期を終えた現在の感想をお聞きしました。修士課程のときよりもインテンシブに研究を進める必要性や、研究以外の方面のスキルへの関心、学会運営に携わったり外部の人と関わる機会が増えたことによる立場の変化を感じているとお話ししてくださいました。

参加者の皆さんからは、情報収集にも関わる人的ネットワークの作り方や、博士課程在学中のビジョン、一般的に就職が難しいと言われていることについてどう思うか、どのようなサポートが教職員からあるとよいかなどの質問が出ました。

イベント終了後のアンケートでは、「ちょうど自分の進路に悩んでいるところだったか、進学に対しても就職に対してもポジティブに考えることができた」という声や、「文系研究者の懸念である就職・収入等の議論が行われたのが有意義だった」という声を頂きました。また、「登壇者のお二人の博士課程以外の進路が異なっていたことで、進路の多様性について参考になった」という意見もありました。(新田)

【参加者募集】オンラインミートアップシリーズ Coffee Time Series 第15回「Youはなぜ博士課程へ!?~文系の就活と進学~」9/3(火)18:00-
9月3日(火)日本時間18時から、歴史家ワークショップ主催のオンラインミートアップシリーズ“Coffee Time Series”の第15回を開催します。本シリ…
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第16回「研究に携わる人たちのためのネットワーク・マッピング・ワークショップ」(2024年12月6日開催)

第16回は、「ネットワークマッピング」をテーマに、東京大学ジェンダー・エクイティ推進オフィスと合同で、ワークショップ「研究に携わる人たちのためのネットワーク・マッピング・ワークショップ」を行いました。

研究者、とくに博士課程の学生や若手研究者は、交友関係が限定的になりやすいと言われています。しかし、実際は研究だけでなく、キャリア形成や教育、ワークライフバランスにもネットワークが必要です。そのためには、研究のアドバイスをしてもらえる人、情緒的なサポートをしてくれる人、アイディアを共有できる人、一緒に論文を書く仲間、メンター、スポンサーなど、さまざまな年代・分野をこえた人脈をつくることが求められます。

このような現状にたいして、本企画では、まずキャリアアップとメンタリングについてのレクチャーを行いました。その後、参加者には各グループに分かれていただき、運営メンバーのファシリテーションでグループワークを行い、実際に自身の人間関係のマッピングを行いました。このような企画を通じて、運営メンバー含め、参加者はさまざまな年代・分野をこえた人脈をつくるための方法について学ぶことができました。同時に、ワークショップを通じて、参加者が現在の人的ネットワークを見直し、今後のよりよい研究のために必要な人とつながるためのアクションを考えるきっかけが得られる機会にもなりました。

また、本企画は、東京大学GE推進オフィスとの初めての合同イベントでもありました。合同で企画したことにより、東大に所属する理系研究者にも参加してもらうことができ、分野を超えた研究者間の交流も実現しました。

イベント終了後のアンケートでは、「一人では自分のネットワークを見直す機会がないので、同じような悩みを持っている方と色々共有できてよかった」という声や、「心理的安全性が確保された状態の中で参加者が話せていたと思いました」という声をいただくことができました。また、レクチャーに関しては、「もう少し長くて具体的な内容を含んでも良かった」のではないか、とのご意見もいただきました。(村山)

【参加者募集】オンラインミートアップシリーズ Coffee Time Series 第16回「研究に携わる人たちのためのネットワーク・マッピング・ワークショップ」12/6(金)13:00-
12月6日(金)日本時間13時から、歴史家ワークショップと東京大学ジェンダー・エクイティ推進オフィス主催のオンラインミートアップシリーズ“Coffee Time…
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総括

2024年度のCoffee Time Seriesでは、以上3つのオンラインイベントを開催しました。

シリーズ開始から5年目に入ろうとしていますが、つぎの2025年度も、研究生活の楽しさや悩み、ピアサポート、ライフプランやキャリアなど、さまざまなテーマのイベントを実施したいと考えています。今後も、Coffee Time Seriesが気軽に悩みを共有できる支えあいの場として機能し、誰もが楽しく研究を続けていくことのできる環境づくりに寄与できること、また、イベントを通してより多くの方とお会いし、つながりを作っていけることを願っています。

 今後扱ってほしいテーマがある方や、Coffee Time Seriesの運営に参加したいとお考えの方は、こちらよりお気軽にご連絡ください。