7/1(日)に開催された第2回RE.F.Workshopイベント「’Who Are Historians?’:「歴史家」とは誰を指すんだろう?」について、京都大学大学院の中辻柚珠さんと北海道大学院の高橋稜央さんの2名にレポートを書いていただきました。
中辻柚珠(京都大学大学院修士課程2年)
2018年7月1日、東京大学の本郷キャンパスで開催されたワークショップ「’Who Are Historians?’:「歴史家」とは誰を指すんだろう?」に参加した。
本ワークショップで私が得た重要な気付きは、自らの研究の社会への還元は、必ずしも社会的価値を持ったものでなくてよく、純粋に知的なものでもかまわないということだった。大多数の研究者にとっては当たり前のことなのかも知れないが、私の場合は自身の研究意欲が社会的問題意識と不可分であるため、「社会とアカデミアをいかに繋ぐか」という課題を考える際には、やはり現在の我々にとっての有用性を一番に考える向きがあった。それは決して資本主義の流れに組み込まれることでも政治家に媚びることでもなく、ただ今を少しでも良くしたいという意欲に基づくものであって、私はこのスタンスを崩すつもりはない。しかし、学問が成り立つにあたって「知ることは面白い」という純粋な知的好奇心の役割は非常に大きいのであり、その点を社会にも共有してもらえなくては、「人文学は何のためにあるのか?」という社会からの厳しい問いにはいつまで経っても答えきれないのだと気づいた。
その上で、今回もっと掘り下げて聞けばよかったと後悔しているのは、知的な面白さを広く社会の人々に共有する方法の問題だ。莫大な時間をかけて得た知識の面白い部分だけを、全く専門的知識のない人に短時間で分かりやすく説明するというのは非常に難しい。どうかみ砕いて言えばよいか、視覚的にはどのような情報が効果的か、視覚だけでなく広く五感に訴える方法はないだろうか、等、考えたい点は多々ある。こうした方法を皆で考え、共有することで、社会とアカデミアの距離や両者のあるべき関係性を考えることができれば、学問が独善に陥るのを避け、研究者と社会の人々の両者が納得できる学問の存在意義に辿り着けるのではないだろうか。そこに至りたいと、本ワークショップを通じて強く思った。
髙橋稜央(北海道大学文学研究科修士課程1年)
今回のワークショップは、主催者の槙野翔氏との共通の知人から勧められ参加を決めた。参加の理由は①歴史哲学にかねてから興味を抱いており、テーマである「歴史家とは誰のことを指すのか」という問いに惹かれたことと、他分野から歴史学にアプローチする研究者の話を聞きたいと思ったからである。
最初に、近年Ph. D取得され、アカデミックポストに就いた研究者三人による講演が行われた。三人ともそれぞれの立場、バックグラウンドから、自らの研究の価値を言語化しており、自らの追っている抽象的なものを如何に言語化し、表現することが重要であるかを実感した。内容としては、自分の行っている分野や自認するディシプリンと、Ph. Dの種類や応募先の区分などとの間にある、ある種の溝を埋めるために、Ph. Dを取得してからポストを得るまでの葛藤をお話しくださった。これから自分の今後を考える際に、「歴史家とは何か、誰を指すのか」といった根源的な問いから、実際に自分はどういったキャリアを歩みたいのか、歩めるのかということを具体的に考え始めるとても良いきっかけとなり、非常に貴重な経験であった。
ディスカッションでは、特に実践的な質問が多くを占めていたが、これは「新しく、そこまで大きな研究会でない」ことが功を奏し、そういった「生々しい」話を聞きやすくしたのであろうと感じた。本題であった「歴史家とは誰のことか」といった問いにもっと結びついた質問が多く出されでも良いような気がしたが、それもアカデミックポストにつくことが困難であり、競争的資金など、外部により端的に自分の価値を示す必要性が高まっているということも大きく影響しているのだろう。
最後に懇親会については、学会・研究会の後の懇親会での「与太話」によって得る有意義な情報は非常に多く、筆者もそれを第二の目的にしていたようなところがあった。槙野氏が行ってくださった「対話しやすい」空気作りや、ディスカッションを完全に止めることなく気楽な語り合いに映ることができるようにしたといった配慮は非常に有り難く、また良い効果をもたらしていたのではないだろうか。実際ディスカッションでは発言のなかった人物が懇親会にて議論の中心となっているところを何度も目にすることがあった。
このような様々なディシプリンが融合した研究会は、普段自分の所属学会だけでは出会うことのできない人物とその考え方に出会うことのできる貴重な機会であるため、今後も積極的に Historians’ Workshop 関連の研究会に参加させて頂きたい。
今回の反省を踏まえ、また次回イベントを開催いたしますので、是非その際には、今回来られた方も来られなかった方もお越しください!!