第12回 Research Showcase 開催記録

阿部純(12thリサーチ・ショーケース運営委員)

第12回Research Showcaseを2月18日にzoomで開催しました。今回は、当初予定の東北初の現地開催からオンライン開催に切り替えての実施となりました。

今回は日本宗教史分野からの発表者をはじめ、生物学史やタイ建築史、近現代ドイツ外交史、英国現代史からの発表者も集まりました(当日のプログラムはこちら)。司会を東北大学のオリオン・クラウタウ先生が担当し、同じくクラウタウ先生と東北大学のクリントン・ゴダール先生がゲスト・コメンテーターをつとめました。

ゴダール先生はプレゼンテーションにおける重要なポイントを3つに分けて説明しました。第一に、自分の主張を、複数ではなく「1つ」の「大きな結論」として示すことです。オーディエンスの記憶に留めて欲しいことを1つに絞り、それを結論として示すよう心がかけることが重要だと述べました。第二に、先行研究と自分の報告の違いを明確にすることです。報告の方向性をオーディエンスに伝えるためにも、先行研究の問題点と自分の報告の正当性を、最初の段階で述べておくことが重要だと指摘しました。最後に、パワーポイントについて、スライドに多くの情報を詰め込むのではなく、簡潔なものにする必要性を示しました。

クラウタウ先生はゴダール先生のお話を踏まえつつ、日本の学会と国際学会における報告方法の違いをご自身の経験を例に出しながら説明しました。その上でクラウタウ先生が最も強調したのは、プレゼンテーションのイントロダクションで、自分の研究がいかに新しいのか・新規性があるのかを示すことの重要性です。研究の目的のみならず、その研究を行う意義を説明することが必要であり、最初のスライド1~2枚で研究史とその問題点を踏まえておくことで、報告の目的・内容・結論の新規性をオーディエンスが理解できると述べました。

今回のResearch Showcase Prizeには、戦後日本のオカルト言説について報告した東北大学大学院国際文化研究科の韓相允さんが、オーディエンスの投票によって選ばれました。おめでとうございます。

今回も発表者の方々に、アンケートに協力していただきました。以下、その一部を紹介します。

今回の Research Showcase での準備・発表を通して 一番楽しめたこと、苦労したことをそれぞれ出来るだけ具体的に教えてください。

  • 楽しめたこと:普段参加する学会と異なり専門的に違う人達の発表を聞くことができたこと。苦労したこと:原稿の校正や修正。いろいろな方にフィードバックを貰って前日まで細かい修正をしました。
  • 異なる専門分野の研究者に自分の研究のエッセンスを短い時間で伝える機会はこれまであまりなかったため、レビュワーとのやり取りの中で、研究のどこに焦点を当てればわかりやすくなるか、異なる専門分野の研究者はどの部分がわからないのかといった点を学ぶことができたことは貴重な経験となりました。
  • 全てのオーガナイザーが非常に親切で、発表者の気持ちをリラックスさせるよう様々な配慮をなさってくださったことに感謝いたします。楽しめたことは、多くの先生方から多様な観点からアドバイスを頂けたことです。発表者の方々のモチベーションも非常に高く、大いに刺激を受けました。苦労したのはやはり8分以内に、しかも簡潔にまとめなくてはならなかったことです。

Showcaseへの参加は、あなたの今後のキャリアと研究に、今後どのように役にたちそうですか。

  • ほぼ初めての英語発表で、質問の内容はわかっている際も咄嗟の返答の中で英語をすぐに組み立てることができず、日常的に英語を読むだけでなく話す訓練が必要であることを実感しました。今回の機会を得たことで、今後の英語発表に向けた準備等にも意欲的に取り組むことができるように思います。また、原稿のフィードバックについて、二人の先生から、それぞれ異なる視点からご意見を頂けたことがとても役立ちました。また、内容に関する指摘と、プレゼンの形式や方法に関する指摘の双方があったことで、何を意識して発表を行うべきか把握しやすくなりました。
  • 専門的な研究をしていると、専門外の人々は何に興味を持つのか、またプレゼンの前提となる知識をどの程度聞き手が持っているのかわからなくなりがちです。レビュワーとのやり取りの中で、これらの点を学ぶことができました。専門知識のない人々に自分の研究について伝える上で今回の経験は役に立つと思います。

コロナ渦が続く中、前回に引き続き2回目のオンライン開催となったRSですが、当日は皆様のご協力のおかげでスムーズに進み、無事に終えることができました。41名ほどの参加者を得ることができ、Q&Aでは多くの質問やアドバイスが発表者へと寄せられました。司会のクラウタウ先生や質問者が、発表者をエンカレッジしながら具体的な改善案や先行研究の紹介をする場面も見られ、緊張感がありながらも温かい雰囲気の中で刺激的なやり取りが交わされていました。今回のRSが発表者を含め、参加した皆様の今後の研究や教育にとって有益であったならば幸いです。

東北大学のクラウタウ先生、ゴダール先生、茂木謙之介先生、告知に協力してくださった方々に感謝いたします。今後とも、英語での発表スキルの向上や、学際的・国際的交流を目指す全ての歴史研究者の参加をお待ちしています。

史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」開催報告書

2020年10月2日(金)に、史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」が開催されました。企画者である峯沙智也さん(東京大学大学院博士課程)を中心としたメンバーによる開催記を以下掲載します。

史料読解ワークショップ開催記

ワークショップの概要(峯)

2020年10月2日(金)に、史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」が開催された。講師として、飯田洋介先生(岡山大学)と山本浩司先生(東京大学)をお招きし、新型コロナウイルス感染症拡大のもと(Zoom使用による)オンライン会議という形で開催が実現した。歴史学を専門とする私にとって、史料との付き合い方について第一線で活躍中の研究者から学ぶことのできる今回のワークショップを開催できたことは幸いであった。

今回のワークショップでは、歴史学に取り組む多くの人が避けては通れない議事録史料を題材に、学部生から、博士課程、そして社会人に開かれたワークショップにすることを心がけた。参加者をSNS等やホームページで募ると、数時間後には、全国(ヨーロッパからも!)の学生や国際機関に勤務する社会人を含む多様な参加者からの申し込みで枠がほぼ埋まった。

参加者には事前に課題が配布し、各自が当日までに準備を行うこととした。当時のワークショップの構成は、前半が飯田先生による「19世紀プロイセン・ドイツの省庁議事録の場合」、後半が山本先生によるイギリス王政復古期(1660-85)の議会史料を読む」の二部に分かれていた。それぞれ先生の講義の後、グループにわかれて事前課題について議論し、その後に全体での質疑応答があった。

以下の各セッションの内容及び開催方法に関する記述は、企画者である峯と協力メンバー(大下・佐藤・安藤)がワークショップ後に話し合った内容を、峯が加筆修正・再構成したものである。続いて、参加者の声を抜粋して紹介している。開催記の文面を確認いただいた講師の先生に御礼申し上げたい。

飯田先生のセッションについて(大下理世)

飯田先生の事前課題の題材は、独仏戦争(普仏戦争)勃発二日前の1870年7月17日にプロイセン海軍省にて開催された会議の議事録である。ヤッハマン海軍中将、ゴルツ海軍少佐、シュテンツェル海軍大尉に加え、外務省からはクラウゼ公使館参事官がこの会議に出席し、その議題は、アメリカでの軍艦購入による〔海軍力〕増強についてであった。事前課題として出されたのは、①この会議の議題は何か、②この議題に対する発言者の主張をまとめること、③議題に対する発言者の所属する省庁の立場の違いを確認すること、④この議事録をより深く理解するには、他にどのようなことをおさえておけばよいと思うか、というものであり、19世紀のドイツ史の前提知識がない参加者であっても取り組みやすかった。

ワークショップの講義で飯田先生は、P. ガイス/G. ル・カントレック監修(福井憲彦/近藤孝弘監訳)『ドイツ・フランス共通歴史教科書【近現代史】』(明石書店 2016)を引合いに出して史料のカテゴリー(政治的文書、行政文書、法律文書、個人的な文書、文学作品など)について説明した上で、議事録(Protokoll)という史料がどのような性格を持ったものであるかを位置付けた。その際、飯田先生は、議事録の語義を確認した後、そこには議事内容と出席者の発言が記録されるものの、それがどのレベルの会議の議事録か(国会レベルか、官公庁のどのレベルか?公開の有無は?)を確認することが、発言内容やそこでの議論の結果を位置づける上で不可欠であると説いた。続いて、事前課題の題材となった議事録が解説された。この議事録には、戦時に米国で軍艦購入することをめぐって、外務省のクラウゼが米国での中立法の故にそれが困難かもしれないことから、極秘に「シェリハ」という人物に現地調査を依頼することを提案すると、海軍側はこれに同意するとともにイギリスでも調査することを推奨したことが記されている。しかしながら、飯田先生はこの問題をめぐって、この会議以前になされた経緯を紹介し、米国での軍艦調達をめぐって外務省と海軍省の間で意見の相違があったことに触れ、その文脈をおさえてはじめて議事録に垣間見られる両者のスタンスの違いに気づくことができるのであって、議事録からだけでは読み取れないことがあること、すなわち議事録そのものに過度に期待せず、他の史資料と組み合わせて読む必要があるとして、本ワークショップの主題でもある「議事録の内と外」を示した。

続いて行われたグループワークでは、それぞれが事前に用意してきた課題の答えにもとづいて議論を行った。オンライン上での議論ということでGoogleドキュメント上に参加者が用意してきた解答を書き込み、それぞれ口頭でその説明を行った。報告者のグループでは、事前課題に熱心に取り組み史料の歴史的背景についても勉強してきた参加者が多かった。飯田先生の講義とグループワークを通じて、報告者は主に二つの重要な点を再認識した。第一に、「議事録から読み取れること」と「議事録だけでは分からないこと」、すなわち、議事録の内と外を意識する必要があることである。ここでいう「議事録の外」とは、軍艦について、あるいは社会情勢に影響を与えた条約について知識や理解を得るための議事録以外の資料である。第二に、議事録を読む際、発言者の主張がその肩書きと立場によって影響を受けていることを意識する必要がある点である。

山本先生のセッションについて(佐藤ひとみ)

史料読解ワークショップの後半では、山本浩司先生が、イギリス王政復古期(1660-85)に行われたストア川の「河川航行事業」に関する議事録と法案を用いたワークショップを行った。 (事前配布資料、当日のスライドと音声はこちら)

今回のワークショップで提示された史料は以下の2つである。1つ目は、1662年3月に庶民院を通過し、同年に法律として成立したストア川関連法の抜粋である。2つ目は、ストア航行法の成立過程を明らかにするために、ストア川法が庶民院で本格的審議を受けた、一連の審議の議事録史料である。

山本先生から事前に提示された課題は、「ストア川法案と地元住民の権利保護の関連性」や、「ストア川法案の内容は、これまでの1688年の名誉革命に対する一般的理解をどのようなに修正し、改める可能性があるか」というものだった。法案が可決する流れを確認する中で、住民による嘆願書が法案の成立を十分に理解するためには重要であることが伺えた。しかし、今回のワークショップでは限られた史料しか与えられておらず、自分たちが検討している史料を歴史の全体像の中で位置付けることの困難さを感じた。議事録の内容を理解するためには、その外側、つまり議事録で言及されている他の史料や社会的背景の理解なしでは、自分が扱う史料としての議事録を全体像のピースとして認識できないのだと痛感した。

また、今回山本先生が使用された史料は、先生が博士論文を執筆する際に実際に用いた史料である。ワークショップが終わったあと、先生からご自身の研究についての解説があった。そこでは、特に、実際の議会の議事録をどのように理解するかという問題と、その史料が研究史的に持つ意義が何なのか二つの層を意識しながら議事録を読むということについて先生自身の経験を交えたレクチャーがあった。

例えばこれまでの研究では、議会主導で市民の権利保護が達成されたのは1688年の名誉革命で、それが経済発展の基礎となったと考えられてきた。しかし、発見した史料を読む中で、イギリス議会は政治的不確実性に直面していた王政復古期(1660-)から、すでに市民の権利や所有権について意識しており、そのことがイギリスの経済発展を可能にしていたのではないか、という仮説が立てられた。さらに史料を検討していく中で、市民の権利や所有権が保護されていたとしても、それは必ずしも「議会主導」とは限らないのではないか?重要なのは権利保護のタイミングではなく、立法プロセスにおける利害関係者の役割ではないか?という、さらに踏み込んだが問いが立てられた。

新たな問いをもとに史料を検討していく中で、ストア法案に直接関係する院外史料や、議会が同時に審議していた事案、王政復古体制の正当性を提示する源泉——これは木版画に描かれた絵と文書から示された——といった史料が新たに発見された。そして、王政復古期には、絶対王政期のトラウマや、市民からの請願書を駆使した、院外政治による「記憶」の利用があったことが明らかになった。こうして、18世紀以降の運河網と経済発展の基礎となる航行河川の延長は、名誉革命以前の1660年代から、院外からの介入をきっかけとして地元住民権利保護と両立する形で行われつつあったことが示された。

歴史を書くために史料として議事録を読む時、私たちは自分の中にリサーチクエスチョンを立て、その問いを下敷きとしながら議事録を読み、パズルのピースとして全体像の中に位置付けようとする。しかし、山本先生のレクチャーから、問題設定は史料読解を進める中で進化することを学ぶことができた。また、自分が扱っている目の前の問いは、大きな物語を再構成することに繋がる可能性があることを、今回のワークショップを通して知った。しかしそのためには、問題設定や史料を制限してはならない。また議事録を読む際には、多様な史料で補って読むことが重要なのである。山本先生のレクチャーを通して、歴史を書く上で問いを修正する重要さ、議事録を読む際に多様な史料で情報を補う必要性、そして目の前の問いをより大きな研究史の文脈に位置付けることの大事さを学ぶことができた。

参加者のグループ分けなどの開催方法について(安藤良之介)

開催方法を検討した者として全体として振り返ってみると、身分、性別、居住地域、興味関心など、様々な属性の方に参加していただけたと思う。この点に関しては、オンライン開催だったことに加え、山本先生、飯田先生という専門地域・時代の異なる先生に講師をお願いできたのも大きかったのではないだろうか。当日のレクチャーでも各先生で異なる種類の議事録を扱い、異なった切り口から解説を加えてくださり、一参加者として学ぶところが大きかった。また参加者の多様性に応じて、学年・性別の割合がなるべく均等になるようにグループ配分したことも工夫のひとつであった。

参加者の声(アンケートより抜粋)

  • (聞けてよかったこととして)史料を読むときは,まず形容詞を外してSVOだけ読む(という読み方)
    (学部生・フランス史)
  • 議事録と他の資料をどのように組み合わせるか、実際の研究例を通して分析方法を説明してくださったので非常に勉強になりました。
    (学部生)
  • 第一線で活躍する研究者の調査手法(「手の内」)を知ることができて有意義で、かつ刺激を受けました。
    (博士課程・フランス史)
  • 史料を探している時、迷走しているようにも感じるが、新しい史料を見つけながら、質問もブラッシュアップしていく」、という話を伺えて良かった。
    (博士課程・チェコ史)
  • 歴史学のすごさが分かりました。一般人が参加できる歴史学講座で嬉しかったです。
    (社会人・国際機関勤務)
  • 一片の史料から歴史が再構築されていく様子が活き活きと語られた点が非常に良かったと思います。
    (社会人・大学教員)

登壇された講師

  • 飯田洋介先生(岡山大学)
    ドイツ近現代史:ビスマルク外交の再検討。
    著書に、『ビスマルク』中公新書、2015年。『ビスマルクと大英帝国』勁草書房、2010年。
    近著『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争: ビスマルク外交を海から捉えなおす』NHK出版、2021年。
  • 山本浩司先生(東京大学)
    イギリス近世史:エリザベス朝期の時代劇や南海泡沫事件の再検討
    著書に、Taming Capitalism before its Triumph, Oxford University Press, 2018。

飯田先生の著書が1月26日に発売されました。最新の研究で使用された史料をワークショップの題材として提供いただきました。実際にワークショップで使用した史料が、飯田先生のご研究の中でどのように議論されているのか、ぜひお確かめください!

飯田洋介『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争: ビスマルク外交を海から捉えなおす』NHK出版、2021年

企画・運営・司会

峯 沙智也(東京大学総合文化研究科・博士課程・ドイツ近現代史)

協力メンバー

大下理世(東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター・ドイツ近現代史)
佐藤ひとみ(東京外国語大学・博士課程・チェコ現代史)
安藤良之介(東京大学教養学部研究生)

【開催報告】特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」@第70回日本西洋史学会大会

趣旨説明・概要

去る2020年12月12日(土)、第70回日本西洋史学会大会において、特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」が開催されました。歴史家ワークショップはこれまで、日本西洋史学会でさまざまなワークショップを実施してきましたが、その中で明らかになってきたのは、多くの研究者が「新しいことを始める余裕がない」という思いを抱えている点です。生活費を確保するためのアルバイトや授業、大学業務、学会の運営、あるいは子育てや親の介護に追われ、充分な研究時間を確保できなかったり、ついには研究者としてのキャリアそのものを断念せざるを得ない事態が生じたりしているのです。

こうした研究者のワークライフバランスをめぐる問題は、これまで個人の努力で解決されるべきものと考えられてきましたが、より多くの人々で議論・課題の共有を行なう意義もあるはずです。その議論を喚起すべく、今回のワークショップでは、企画立案者でファシリテーターを務める春日あゆか氏、コメンテーターとして柳原伸洋氏、金澤周作氏にご発言いただき、その後フロアからも積極的にコメントを出していただくことで、研究者のワークライフバランスについて議論し、問題意識を共有することを目指しました。

春日・柳原・金澤氏による報告

まずは春日氏が、自身の工夫について報告しました。こうした工夫を行なうようになったきっかけは、常勤教員として働き始めるにあたり、将来さらに忙しくなることを見据えて仕事を効率化したいと考えたことでした。そして、Excelを用いた労働時間の記録・可視化や院生・学生の積極的な雇用、授業準備の工夫などの試行錯誤を続け、研究時間の確保に関しては一定の成果を挙げているとのことでした。

つぎに柳原氏の報告では、そもそも「ワークライフバランスとは何か」という問題に立ち戻り、個々人だけでなく家族のワークとライフも関わってくるため、これを達成するのはかなり難しいのではないかという指摘がなされました。また柳原氏は、ご自身の仕事の「効率化」に向けた工夫を紹介する一方で、行き過ぎた「効率化」には警鐘を鳴らしました。「効率化」とはあくまで研究時間を確保するための手段に過ぎず、人間関係や学問を行なううえで効率を追求することが誠実といえるかどうか、という問題が提起されました。

最後の金澤氏の報告では、個人のワークライフバランスと学界全体との関係性が論じられました。ワークライフバランスを達成するためには、それぞれの願望を阻害する現状の課題について、個々人で対応するしかない。しかし、類似した課題を抱える人々でそれらを共有・特定したり、他者の課題に共感することはできる。一方で金澤氏は、個人にとっての心地よさやメリットを追求しすぎると、学界が機能しなくなることも指摘されました。学術雑誌の発行や学会の開催など、学界の維持に重要であるが評価されにくい仕事はいくらでもある。誰かがそれを担っているという理解と、自らがそれを担ってもよいという意欲を持たなければならず、ワークライフバランスを実現するためには、自他の課題を認識し、それぞれの事情に理解を示しながら協働できるような、学界の「メンテナンス」が必要である、という考えを述べられました。

フロアからのコメント

以上の三つの報告に対し、フロアからは様々なコメントが寄せられました。

例えば、仕事の効率化に関する内容です。これらのコメントからは、それぞれの職場や制度の中で皆さんが取り組まれている試行錯誤の現状が浮き彫りとなりました。また、そもそも仕事の効率化が必要ない環境を作るべきではないか、そのために大学・政府に制度改革を求めることが重要ではないかという指摘もなされました。これに対し柳原氏から、それぞれの組織・団体内で活動を続けること(他の団体がやっているからといって途中で止めないこと)が重要だというコメントがありました。

研究者の立場とワークライフバランスについて、とくに専業非常勤講師の現状に注目すべきという声もありました。非常勤講師は、任期や給与等の点でワークライフバランスの達成が極めて困難である。ゆえに、非常勤講師が置かれている状況を注視し、改善に向けた動きをとることが必要ではないかという提起がなされました。

さらに、研究者の人間関係に関するコメントも寄せられました。とくにこのコロナ禍で、今まであった人間関係が断絶したり、新たに人間関係を作ることが難しく、孤独な環境に置かれている。これについては自ら積極的に「場」を作ろうとする動きが大切だということで、春日氏から、オンラインを利用して集まり、一定の時間内で各自がそれぞれの作業を行なう「オンライン・グループ」の事例が紹介されました。

参加者の意見(アンケート結果より)

【得られたこと】

  • ワークライフバランスについて、皆なにがしかの悩みを抱えていることを共有できたこと自体が、今後を考えるうえで重要な一歩。
  • 世代によって、社会的あるいは経済的な立場によって直面している問題はそれぞれだが、このような問題を共有できたこと自体を嬉しく思う。
  • Excelを使った時間の見える化、時間を決めて図書館に通うといった実践例が参考になった。
  • ワークバランスをいろいろな組織が継続していくことの大切さ、非常勤雇用の不安定さや男女格差の問題など、いろいろな問題を学会の場でオープンにできた。

【もっと知りたかったこと、不足していると感じたこと】

  • 場作りを大切にするなら、パネリストに大学院生や研究員、非常勤講師もいると良かった。違う立場の人が同じ舞台で話せるイベントができたらそれ自体にとても意義があり、立場の弱い人の励みになると思う。
  • 各人がさまざまな事情を抱え、夕刻という開催時間を考えても、事前アンケートによりあらかじめ一定程度の意見集約を行なうほうがよかった。
  • 個々の愚痴と現状への対処法について、もっといろいろ吐き出して問題を共有したい。
  • 西洋史という領域に特有の現状認識と、それに由来する困難や解決の可能性について話すことも有益だろうと思う。

まとめ

今回のワークショップは、18-19時という時間帯にもかかわらず92名という多くの方にご参加いただき、それぞれの抱える課題について、議論・共有することができました。また、コロナ禍というこの厳しい状況において、第70回日本西洋史学会大会を運営され、特別ワークショップの開催を許可・支援していただいた大会準備委員会の皆さまに、心から御礼申し上げます。

今後も各種イベントの開催を続けていきたいと思いますので、アイデアがおありの方は、運営委員あるいは当HPのコンタクトフォームにてご連絡ください。

執筆:北川涼太(広島大学・博士課程後期)

2nd Early Career Conference 開催記録

【会の概要】

2020年8月31日(月)13時より、歴史家ワークショップは第二回 Early Career Conference(以下、本文中ではSECCと略記)を開催しました。

SECCでは、スピーカーとして国内外の研究機関と大学から6名の若手研究者に報告を依頼しました(当日のプログラムにつきましては、こちらをご参照ください)。また、報告とSECC全体に関するコメンテーターとして、同志社大学グローバル地域文化学部の水谷智先生をお招きしました。当日の司会進行は、東京大学大学院総合文化研究科の稲垣健太郎が担当しました。

【開催趣旨】

SECCは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大規模な学会のみならず、小・中規模の研究会等が全世界的に中止・延期を余儀なくされる状況下、企画・運営されました。本イベントの企画時点でも、オンラインに移行して学会や研究会が開催されています。こうした移行を一時的なものとしてのみ考えるのではなく、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアカデミアが直面している様々な変化の一環として捉えつつ、SECCの企画・運営が進められました。本カンファレンスの開催趣旨として、以下の2点を挙げることができます。

1. 上述のような困難な状況においても、国内外の大学・研究機関に所属する大学院生・若手研究者に研究報告の機会を提供すること。また、オンラインでの報告機会が今後増える可能性を考慮し、オンラインでの報告について学ぶ機会を用意すること。

2. 専門分野の知見を必ずしも共有しない、幅広いオーディエンスに向けて研究成果を伝えるにあたり、どのように報告内容を整理し、発表するか。また、報告に対していかに効果的に質問をするか。

英文校閲ワークショップや Research Showcase、2018年に開催された第一回 Early Career Conferenceなど、歴史家ワークショップがこれまで実施してきた試みと同様に、SECCも「幅広い読み手・聞き手に対してどのように研究の核心や新規性、独自性をわかりやすく伝えるか」という点を特に重視しました。

【発表とコメント】

SECCでの報告のテーマは、多様な地域と問題関心にわたりました。以下にそれぞれの報告の概略を示します。

  • 20世紀の上海におけるアメリカ人宣教師の子どもたちが、異国の地でどのようにアイデンティティを形成したのかを、回顧録における食という側面から考察する。
  • 第二次世界大戦後のアメリカにおける国際関係論の学問としての制度化とその背後に垣間見える意図を、ロックフェラー財団とアカデミアの関係に注目しながら明らかにする。
  • 19世紀前半における阮朝の交易を、東南アジア海域史の文脈や西欧諸国との関係性から分析する。
  • 11世紀のグラナダ王国ズィーリー朝君主アブドゥッラー・ブン・ブルッギーンの自伝を中心に、アラビア語文献史における自伝というジャンルやそれらに仮託された書き手の意図を考察する。
  • 20世紀前半のチェコスロバキアにおける共産主義の拡大を、ソビエト連邦という外在的な要因によってではなく、チェコスロバキア内部の要因から分析・説明する。
  • 20世紀のフランスにおける結婚広告の調査を通じて、パートナーに求める要素が即物的なものから非即物的なものへと変化していった、という仮説を検証する。

いずれの報告も、分析の視角や手法・資史料、そこから導かれる帰結の点で興味深いものでした。それぞれの報告者が、先行研究との関係から研究の独自性を打ち出し、研究がより広い文脈において有する含意 (implication) を示すことに成功していました。

報告後の質疑応答では、事実確認に止まらず、どのように研究をさらにより大きな知的文脈に位置付けるか、という点にも議論が及びました。

以上の報告を受けて、水谷先生からは、研究者のキャリアパスの様々な段階において、読み手や聞き手の反応を予想しながら研究成果を発信していくことの重要性、またキャリアのはやい段階で幅広いオーディエンスに向けた報告を意識する必要がある、というコメントをいただきました。

【おわりに】

SECCは、今年度実施されている歴史家ワークショップの他のイベントと同様に、オンラインで開催されました。オンラインでの国際的な学会の企画・運営という経験は、運営に当たった私たちにとっても初の試みとなりました。オンライン開催に伴い、日本のみならず、ヨーロッパやアジアから、合計20人ほどの皆さまにご参加いただきました。

報告を伺い、質疑応答に参加するなかで、私自身が幅広いオーディエンスに向けて報告をする際にどのように情報を整理するか、オンラインで自身の主張を伝える際に、内容的な面のみならず、伝達の方法をどのように工夫するか、という点を考えるきっかけになりました。また、短い時間のなかで、建設的な質問をすることを意識しながら、今後のカンファレンスや学会に臨みたいと感じました。

報告者からは、議論を整理するだけでなく、スライドをどのように効果的に作成するかについても考える機会になったという感想をいただきました。

【謝辞】

末筆ながら、今回のSECCの開催に当たってご協力いただいた共同企画者と歴史家ワークショップの皆さま、CfPとカンファレンスの告知に際してご協力いただいた皆さま、ご多忙のなかコメンテーターを引き受けてくださった水谷先生、そしてご参加下さった皆さまに感謝いたします。ありがとうございました。

稲垣健太郎

第11回Research Showcase(日本文学・日本史)開催記録

第11回リサーチショウケースは7月11日にZoomを使って開催されました。初めての日本文学・日本史特集で、そしてコロナの影響で初めてのオンライン開催となりました。

今回は、日本文学分野から7名、日本史分野からは3名(含美術・思想史)の発表者が集まりました(当日のプログラムはこちら)。司会は国文学研究資料館の山本嘉孝先生が担当し、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のタイモン・スクリーチ先生がゲスト・コメンテーターをつとめました。

スクリーチ先生は10名の発表に共通するテーマを「authority of Tokugawa」、「the way people looked back at history」、「notion of China」「emergence of modernity」としてまとめ、今後の研究展望として、江戸時代の全体像や「浮世」の捉え方を提起しました。

山本先生は日本研究の発表フォーマットに焦点を合わせ、日本語での発表はレジュメやスライドで史資料を解釈するスタイルが多いのに対し、英語での発表は「big picture/concepts」を重視しているとコメントしました。

今回も発表者の方々に、アンケートに協力していただきました。以下、一部を紹介します。

■今回の Research Showcase で学んだことで、同僚や今後の参加者と共有できそうなこと。

  • 普段の研究で反射的に使っている専門用語の英語訳ないし英語での説明方法を考える良い機会になった。
  • 自身の研究における大きな展望と、今現在行っている細かな研究との繋がりを、他分野の研究者に対して明快に説明することが求められる場であり、そのための訓練と自覚化の機会になった。

■Showcaseへの参加は、あなたの今後のキャリアと研究に、今後どのように役にたちそうですか。

  • 英語に限らず、語学を本格的にやらないといけないなという危機感を強く持ちました。日本文学の命脈を保たせるためにも、海外に進出することや、海外から輸入するということを、今後の研究者は真剣に考えるべき時期に来ていると実感しました。
  • 原稿へのフィードバックは、自分の目では気づかないような綻びやミスを指摘していただけて、大変勉強になりました。それだけでなく、一回自分の原稿を落ち着いて読んでみると、自分でも「こういう言い方のほうがいいんじゃないか」とか、「こっちのほうが分かりやすいんじゃないか」とか、そういう視点を持てるようになると思います。
  • 国際学会での発表は、多様な背景を持つ研究者が4人程度でパネルを組んで応募することが一般的だと思うので、RSで出会った研究者ネットワークは大変貴重なものになると思います。
  • 発表原稿のフィードバックについては、発表内容におけるどの部分が必ずしも共有の知識ではないのかを、他分野の研究者の方から具体的に指摘して頂ける機会が貴重であると感じます。慣習的に使用している用語を、改めて言語化する訓練の機会にもなりました。
  • 今回の発表を通して得た経験で一番大きかったのは、英語発表に対する免疫がついたことです。正直自分が英語で発表することはないだろうと思っていたのですが、RSでの発表を経てむしろ積極的に国際発信していきたいという気持ちになりました。

まとめ

初めてのオンライン開催となったRSですが、無事に終えることができました。オンライン開催により地理的制約がなくなったことで、アメリカ、ヨーロッパ、中国からの参加者も含めて30名ほどの参加者を得られました。日本史や日本文学研究においても国際発信の機会がいっそう増えつつあるなか、多様なステージに身を置く研究者があつまり、研究内在的な論点からその伝え方に至るまで、刺激的なやり取りを交わす機会となりました。

SOASのスクリーチ先生、大阪大学の飯倉先生、国文学研究資料館の山本先生、そして告知にご協力いただいた皆様に感謝いたします。

歴史家ワークショップでは、今後も日本史、日本文学研究者の国際発信をサポートする取り組みを進めていきます。一層多くの方々に参加していただけますよう、運営側としても願っております。

【開催レポート】Self Care and Peer Support Workshop (2020年6月25日開催)

2020年6月25日(木)に「セルフケア・ピアサポートワークショップ」がオンラインで開催されました。企画運営を担当した藤田風花さんによる本イベントのレポートを以下に掲載いたします。

【開催趣旨】

歴史家ワークショップはこれまでにも英文校閲WSやCoffee Time Seriesなど、「ピアサポート」、すなわち研究対象や方法論の違いを超えて研究者たちが仲間同士を支え合う水平関係でのサポートを実践してきました。本企画はより根本的なレベルに立ち返り、「そもそもピアサポートとは何か」について考えるためのイベントとして開催されました。

これまで、研究や教育活動に携わるなかで悩みが生じたとき、多くの人が「自己流」で対処してきたのではないかと思います。しかし新型コロナウイルスの感染拡大により、研究仲間や同僚との対面でのコミュニケーションの機会が失われたこと、さらに日常生活と研究活動との切り替えや、留学や史料調査の予定変更とキャリアへの影響、オンライン講義の受講や準備にたいする疲労等の新たな問題にも向き合わざるをえない状況が続いています。

そのような状況において、今回の企画は実際に歴史研究に携わっている方々から寄せられたセルフケアについてのイベントを希望する声から出発し、歴史家ワークショップとしては「セルフケア」に主眼をおいた初めての試みとなりました。いま一度セルフケアについての基本的な知識を得ることから始め、それを実践に繋げるというプロセスを体験する場として、レクチャーとワークショップの二部構成で実施されました。グリーフケアを専門とする一般社団法人リヴオンの尾角光美氏と水口陽子氏を講師に迎え、歴史家ワークショップ事務局の紺野奈央と京都大学大学院文学研究科博士後期課程の藤田風花が企画運営・進行を務めました。

【第一部】レクチャー「セルフケア実践につながる姿勢とスキルを学ぶ」

55名が参加した第一部では、まずセルフケアについての基礎的知識のレクチャーがおこなわれたのち、自分自身の現在の状態を俯瞰的に見るためのいくつかのスキルが紹介されました。ミニワークが取り入れられ、Zoomのチャット機能を活用して講師と参加者とのリアルタイムでのやりとりが講義と並行しておこなわれるなど、双方向的な要素が盛り込まれていました。教わったスキルをその場で実践し、効果を実感することは、参加者それぞれがセルフケアのスキルを自分のものとしていくうえで有意義なプロセスであると感じました。また、セルフケアについてさらに専門的な内容を知りたい人のために、参考文献もいくつか紹介されました。

レクチャーの後半では、セルフケアの実践に焦点があてられ、「ピアサポート」の意義と実践方法について説明されました。続いて、本イベントに集った参加者のピアの力を活かすことのできる実践方法として「当事者ミーティング」の手法が紹介されました。

【第二部】ワークショップ「当事者ミーティングの体験を通じピアサポートにふれる」

休憩を挟んで再開された第二部には20名が参加し、第一部のレクチャーで紹介された「当事者ミーティング」を実際に体験することに主眼がおかれました。はじめに、尾角氏のファシリテーションのもと、紺野と藤田、そして本企画有志の市川佳世子・安平弦司・吉川弘晃を加えた6名でデモンストレーションをおこないました。

その後、Zoomのブレイクアウトルーム機能を使用して参加者全体が5つのグループに分かれ、「当事者ミーティング」を体験しました。各グループでは、上記6名と水口氏、森江健斗が進行役を務め、グラフィック・ファシリテーションの手法をもちいて話し合いの内容を可視化しました。まず、参加者に「現在気になっている・困っていること」や「実現したいこと」をいくつか書き出してもらい、時間の制約上そのなかから1つを取り上げ、グループ全体で共有しました。次に、悩みを共有してくれた参加者に、具体的な質問を投げかけることで、その悩みの背景を掘り下げました。続いて今度は悩みを共有してくれた参加者は聞き役に徹し、他の参加者がその悩みの解決に向けて思いつくかぎりのアイデアを出していきました。ここでは、議論を戦わせたりアイデアに優劣をつけたりすることは求められません。というのは、自分の共有した悩みの解決方法についてのアイデア出しを黙って聞いている参加者が、心のなかで自分自身が取り入れられそうなものだけを持ち帰ればよい、とされているからです。

グループワークを終えて全体のルームに戻ってきたのち、参加者全員が感想を述べて第二部は終了しました。「自分の悩みが自分以外の人たちで話し合われることで悩みを客観視できた」、「システマティックに時間を区切って行われたので、悩み相談にありがちな『だらだら続いて疲弊する』ということがなくよかった」「『ピア』の力を実感した」などの声があり、参加者が「当事者ミーティング」を楽しんだ様子が印象的でした。

【参加者の声】

・ピアサポートにおける「ルール」や「方法論」がわかり、何に気をつけたらいいのかわかったのがよかった。(修士課程、レクチャー・ワークショップ両方に参加)

・レクチャー内での質問に回答し共有することで、自分の問題や抱えていることに気づくという点ではセルフケアの手助けになった。自分だけの問題ならカウンセラーに相談するのはできるが、ほかの人の問題も共有し、お互いに悩みや思いを聞くことができたのがよかった。(修士課程、レクチャーのみ参加)

・専門家でなくても、ピアでできる支援を体験できたことは貴重な機会でした。また、そこで出てくる結論だけでなく、グループワークを行う過程で見えてくることもあり、それ自体がとても良い体験でした。(ポスドク、レクチャー・ワークショップ両方に参加)

・オンラインという制約がある以上いっても仕方がないことではあるのですが、やはりこうしたワークショップはぜひとも対面でやりたいなと思いました。ワークショップそのものについては、研究者という同じ立場の方々の悩みについて、自分ならどうするか、相手の悩みの解決のためにどうするかを能動的に考えるなかで、自分の中で燻ぶっていた悩みについても客観的に考えることができたので、得られるものも多く、とても面白かったです。(博士後期課程、レクチャー・ワークショップ両方に参加)

【おわりに】

欧米の大学では重視されているものの日本ではあまり馴染みのないピアサポートですが、今回のイベントを通じて、そのようなサポートを望んでいる人が多く存在するということを強く感じました。参加者の皆さんからは「当事者ミーティング」をあらためて実施する機会を希望する声を多くいただいているので、将来的にまた「当事者ミーティング」にフォーカスしたピアサポートの場を用意できればと思います。

イベントの最後に、尾角氏が「歴史家ワークショップとイベントへの参加をとおしてそれにかかわる人々の集まりは、潜在的にピアの力が非常に強いコミュニティである」とおっしゃったことが、とても印象的でした。個人レベルでのセルフケアを大切にしつつ、コミュニティレベルでピアの力を最大限に活用することができれば、アカデミアの「基礎体力」を向上させることにもつながるのではないかと感じています。本イベントで紹介・実践した「当事者ミーティング」を、参加者の皆さんがアカデミアにおけるピアサポートの有効な実践方法として受け止めてくださっていれば、大変嬉しく思います。

最後になりましたが、詳細なレクチャーとリラックスした雰囲気づくりをしてくださったリヴオンのお二方、双方向的なやりとりを可能にしてくださった参加者の皆さま、そして本企画の運営をサポートしてくださったすべての方々に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

文責・藤田風花

日本史史料英訳ワークショップ(中世の回)開催記録

(English follows Japanese.)

2020年6月7日・21日に、日本史史料英訳ワークショップの第一回・第二回が開催されました。講師として、イェール大学のポーラ・カーティス氏(日本中世社会経済史)をお招きしました。

第一回では醍醐寺文書を取り上げ、日本中世宗教史専門の橘悠太氏(奈良文化財研究所)と黄霄龍氏(東京大学)、第二回では御成敗式目を取り上げ、日本中世法制史専門の木下竜馬氏(東京大学史料編纂所)と佐藤雄基氏(立教大学)が史料の読み下し・現代語訳を担当しました。

以下、ワークショップの内容を簡単にまとめます。

【醍醐寺文書の回】
・英語圏における日本史史料翻訳の現状
・検討史料:康暦元年(1379)「足利義満御教書」、貞和三年(1347)「足利直義書状案」、応永三十四年(1427)「僧正隆寛付法状」など
・主たる論点:「護持」の英訳はdefenseかprotectionか、密教儀礼で使う「道具」はimplementかtoolかinstrumentか、文書名の訳し方は古文書の様式と機能いずれに即すか、など。

【御成敗式目の回】
・John Carey Hall(イギリスの外交官)による御成敗式目の英訳とその影響
・検討史料:第5条「諸国地頭、令抑留年貢・所当事」、第41条「奴婢雜人事」など
・主たる論点:「年貢」、「所領」、「知行」、「奴婢」の英訳など。

二回とも約27名くらいの参加を得られました。西洋史・東洋史の方も参加してくださり、日欧の土地制度・訴訟制度、日本の「奴婢」は「奴隷」なのか等についても議論が盛り上がりました。

また、参加者からは、①単語・語句レベルでの訳語を、日本と海外の研究者が一同に会して検討することで、日本史史料(そして非西欧圏の史料全般)を英訳するときに出てくる本質的共通課題が見つかる場となる、②こうした議論を史学史的にレベルアップし、日本と海外の両方の研究者にとっての意味を再確認する場になっていくことを願っている、との声も寄せられました。

まだ試運転段階ですが、企画・運営側として、本ワークショップが参加者の皆さんにとって有意義なものになっていることを知り、心から喜んでおります。秋以降は近世、近代の回なども予定していますので、どうぞ、続報を楽しみにお待ちください。

問い合わせ先:黄霄龍 hxiaolong[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

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On June 7 and June 21, 2020, the Historians’ Workshop held workshops on the interpretation and translations of Japanese historical materials. We invited Paula R. Curtis (Yale University), a specialist in Japanese medieval social and economic history), as our lecturer.

In the first session, we discussed fourteenth-century documents related to Daigoji Temple. TACHIBANA Yuta (Nara National Research Institute for Cultural Properties) and HUANG Xiaolong (The University of Tokyo), who specialize in the history of medieval Japanese religion, prepared the medieval Japanese readings and modern Japanese interpretations, which were distributed to workshop participants. In the second session, we discussed the Kamakura period legal code Goseibai shikimoku. KINOSHITA Ryoma (Historiographical Institute, The University of Tokyo) and SATO Yuki (Rikkyo University), who specialize in the history of legal systems in medieval Japan, presented their readings,  interpretations, and insights into the translations of some terms found in the documents.

The following is a brief summary of these sessions.

【A selection of Daigoji Materials】
・Issues in the translation of premodern historical materials
・Documents discussed: Ashikaga Yoshimitsu Directive (1379), Ashikaga Tadayoshi Letter Facsimile (1347),High Priest Ryūkan Letter of Transmission (1427) .etc.
・Some points of interest: the translation of 護持 as “defense” or “protection、” how to capture the nuance of the term 道具 in religious settings (debating the terms “implement,” “tool” or “instrument”)、how to translate titles of documents provided by scholars that may be interpretative (based on style or function), etc.

【A selection of Goseibai shikimoku】
・John Carey Hall’s 1906 translation and its influence on present-day research and teaching
・Documents discussed:Article 5 “Regarding land stewards (jitō) of various provinces withholding the annual tribute (nengu) and land taxes (shotō)”; Article 41 “Regarding bound servants (nuhi zōnin)”, etc.
・Some points of interest:considerations in the translation of core terms such as 年貢, 所領, 知行, 奴婢, etc.

We had about 27 participants in each session. Attendees included   scholars of Western history and Eastern history, and discussions were held on the differences between land systems and legal systems in medieval Japan and Europe, and the complications that arise when dealing with Japanese terms such as  “奴婢,” which is sometimes translated as “slave,” and sometimes as “bound servant.”

Participants also expressed their hopes that (1) by having Japanese and foreign researchers discuss translation together at the word/phrase level we will be able to find common issues that emerge when translating Japanese historical materials (as well as all the non-Western historical materials) into English, and that (2) we might be able to elevate these discussions to a historiographical perspective and reconsider their significance to both Japanese and foreign researchers.

We are still experimenting with the workshop’s format, but organizers are very pleased to know that it was meaningful for all the participants. We are also planning to hold Edo and modern sessions  this fall and look forward to seeing you all next time!

For more information, please contact at HUANG Xiaolong (hxiaolong[at]e.u-tokyo.ac.jp).

「スライド道場」開催レポート

去る2020年5月11日および18日に、スキル・ワークショップ「スライド道場」をオンラインで開催し、おかげさまで非常な好評を博しました。参加者の一人であった山田智輝さん(京都大学・博士課程)に本イベントのレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載いたします。

開催趣旨

議論の内容や妥当性が問題となる学術発表において、それを補助する視覚資料そのものの出来が問われることはほとんどないでしょう。そうした理由もあって、従来、学会での発表にさいしてどのようにスライドをつくるべきなのかは、公の場で体系的に伝えられることはまれで、おおむね個々人の裁量にゆだねられてきたといえるでしょう。

しかし実際には、スライドは発表の質を向上させるための要素として重要な役割を担っています。そこで、スライドの作成について話しあい、そのポイントやテクニックを可視化かつ共有する場として、本ワークショップが企画・開催されました。ここでの目的は、ともすれば多くの情報をひとつのスライドに詰め込んでしまいがちな歴史学分野の研究発表について、どのようにスライドを作成すれば効果的で、よりわかりやすく説得的に聴衆へ内容を伝えられるのかを考えることでした。そのためにも、本会特任研究員の古川萌氏がファシリテーターを務めたのにくわえて、ゲスト講師として竹中技術研究所の今西美音子氏を招聘することにより、歴史学以外を専門とする研究者の視点もとりいれつつ、よりクリアなスライドづくりについて議論しました。

【第1回】スライドづくりの基礎を学ぶ

11日の第1回は、古川・今西両氏をふくめて23名が参加しました。そこでは、今西氏やそのほかの参加者が実際に過去の研究発表の場で用いたスライドを参考資料としながら、スライドづくりの基礎について学びました。

はじめに、どのような役割をスライドに担わせるかに応じて何を記載する必要があるのかを決定していくことや、図表や見出しにくわえ、関係性・構造・性質あるいは数量といった情報を提示するのにスライドは適していることなど、スライドづくりの考え方について今西氏がレクチャーをおこないました。

つづいて、そうした考え方にもとづき、どのようにスライドを作成すればよいのか、具体的なテクニックについて話しあいました。まず推奨されたのは、自分自身のテンプレートを「育てる」ということでした。すなわちそれは、スライド作成アプリケーションにある既存のテンプレート機能をアレンジしたり、自分でゼロからテンプレートをつくってみたりし、さらにその用いたテンプレートを一度きりのものに終わらせずにくりかえし使いながら、そのたびごとに改良していくというものです。

また、紙面づかいや配色、文字の書体やフォントサイズ、ヘッダーやフッターといった機能などにかんして、どのようにすれば聴衆にとって親切なのかを話しあいました。そして、スライド全体の粒度、エッヂや比率等を統一したり、おなじレベルの情報はおなじ見た目にしたりすることなどの重要性を学びました。

【第2回】実践を通してより具体的に学ぶ

18日の第2回には、19名が参加しました。はじめに、前回の補足として、パワーポイントのテンプレート機能の使い方についての詳細な紹介が古川氏からなされました。それにつづいて、前回の内容をふまえて3名の参加者が事前に作成したスライドについて、参加者が作成時の意図を説明したのち、今西氏が考慮すべきポイントや改善できる箇所についてアドバイスをおこないました。

おもに話しあわれたのは、図や配色、年表やキャプションについて考慮・工夫すべき点についてでした。具体的に論点となったのは、どんな聴衆にとっても一目で把握しやすくするために、ユニバーサルデザインに則った色使いを心がけることや、各スライドのデザインを統一したり、行間を調整するなどして、ひとつのオブジェクトをひとつのかたまりにみせたりすることの重要性でした。さらには、アニメーションやドロップシャドウの使い方とその工夫についても詳細な紹介がなされました。

少しの工夫で発表の質を上げよう

以上のように、今回のワークショップでは、ひとりではなかなか気づくことのできないスライドづくりの知や技術を、可視化・共有することができました。多くの人はこれまでしばしば、感覚的な見た目に頼ってスライドを作成してきたのではないでしょうか。しかしそうではなく、理論をもとにデザインすることで、それがたとえほんの少しの工夫であっても、スライドがずいぶんとクリアでわかりやすいものになり、ひいてはそれが発表の質の向上につながることを本ワークショップでは体験できました。とくに、非常に緻密な数値や計算にもとづいた、今西氏のスライド作成理論・技術は瞠目すべきものでした。

また、テンプレートを育てていくことによって毎回のスライド作成にかかる時間を短縮できるため、また、スライドの完成度を高めてクリアにすることによって口頭で説明しなければならない事柄が少なくなるため、その分だけ発表の内容・議論そのものへより注力できる、という同氏の言葉も印象的でした。

参加者の声

ほかの参加者の方々からは、「スライド道場」の参加後のアンケートにおいて、以下のようなコメントをいただいています。

  • 講師の今西さんと参加者の方のスライドを見て、自分のスライドを客観的に見ることができた。私はMacとWindows の両方を使用しているので、Keynote とパワポの両方について知ることが出来て良かった。テンプレートを自分で育てるという発想すら無かったが、年表は必須となるので、作成してみたいと思う。ヘッダーや色の使い方も実践できて良かった。(教員・実践を含むワークショップに参加)
  • パワーポイントに限らず、レジュメにも応用可能な知識を多く教えていただけて、非常に参考になりました。自分が使う記号にルールを設けるというアイデアは早速導入させていただいてます。導入してみると思ったより時短に繋がっているなという実感があります。これまでどこでも教わったことのない知識ばかりだったので、大変刺激的な会でした。(大学院生・聴講のみで参加)
  • テンプレを自分で育てていくなど、その場その場のテクニック以外のことも知れてよかった。「魅せる」スライドは、やはり時間をかけて作るものだと再確認できたので、これから重要な発表の時は、スライドの作成などの見せ方にも拘りたい。(大学院生・聴講のみで参加)

また、遠隔地からの参加も可能となるオンライン開催で良かったというコメントも多数いただきました。

歴史家ワークショップは、歴史研究にかんするイベントの開催を今後もつづけていきたいと考えています。アイデアをおもちの方はぜひ、運営委員に直接、あるいは rekishika.workshop[at]gmail.com にご連絡いただけますと幸いです。

ラウンドテーブル・ディスカッション「西洋古代史・中東史研究の国際化にむけて」開催報告

17FebRoundtablediscusion
会場のようす

2020年2月17日に「西洋古代史・中東史研究の国際化にむけて」を開催しました。カナダ・トロント大学の2人の研究者、キャサリン・ブルーアン氏(古代ローマ史・エジプト史)とギリシュ・ダスワニ氏(ガーナをフィールドとする人類学)に対して、熊倉和歌子氏(東京外国語大学・エジプト中近世史)と歴史家ワークショップ運営委員の高橋亮介が自らの経験を語りつつ質問を投げかけ、それへの応答、さらにフロアからの発言を交え、西洋古代史・前近代中東史の国際化の現状と問題点について話し合いました。

ケベック州出身でフランス語を母語とするブルーアン氏にとって、フランス留学は研究者としてのキャリアを積む上で必須であり、フランス語での書籍・論文の出版もしてきたが、アメリカでのパピルス学のサマーセミナーに参加したことで英語圏での人脈が広がり、英語での研究発表にシフトしていったとのことでした。さらにSNSでの英語による発信に対して想像以上の反響があり、講演に呼ばれる機会も増えたそうです。

ブルーアン氏の近年の研究発表は査読付きの学術雑誌への投稿ではなく、論集への寄稿が中心であるとのことです。氏が編者となる論文集への熊倉氏の寄稿も、共通の知り合いであるカナダ人研究者の紹介で実現したそうで、個人的なつながりの重要性が強調されました。

ギリシュ氏からは、査読誌への投稿の際には、その雑誌の性格や編集委員がどのような人であるかを研究する必要があること、また学術活動全般において、キャリアの早い段階や新しい環境に移った際には自分の有能さを証明することは必要であるかもしれないが、その後は他者との競争よりも共存・共生によって研究を盛り上げるべきであるとの指摘がありました。

他にも元来、西欧諸言語を研究発表に用いてきたパピルス学における英語使用の進展の状況、カナダの大学の英語圏の大学のなかでの位置づけなどについて議論が交わされました。

特定の研究分野を念頭においた企画でしたが、いくつかの話題は歴史研究のあり方全般にも及ぶものとなりました。現在の学術活動には解決の難しい構造的な困難や権力関係があることも確認されましたが、そのような問題に自覚的であり続けることが必要だと感じさせるイベントとなりました。

第10回Research Showcase(名古屋)開催報告

2020年2月18日に名古屋大学で第10回Research Showcaseが開催されました。名古屋での開催は初の試みとなりました。

(Research Showcaseの過去の開催についてはこちら

Research Showcase Prizeの受賞者として、名古屋大学の原田礼帆さん(日本美術史)と東北大学の阿部純さん(アメリカ研究)が選ばれました。当日の開催様子に関して、名古屋大学の留学生Emily Richardsさんが寄稿してくださいました!

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The 10th Research Showcase presented by the Historians’ Workshop, hosted for the first time in Nagoya, started on a high note by skipping the introductions and diving right into presentations. Presenters each gave 8 minute talks, followed by a 7 minute question and answer session. Dr. Nathan Hopson, a professor at Nagoya University who specializes in modern Japanese history, moderated the event, which had a total of 24 attendees. This incarnation of the showcase mostly turned its eye outside of Japan, bringing together 9 presenters with varied backgrounds and topics across various time periods and geographic locations. The topics covered included 18th century theological history, Minoan Crete architectural history, early imperial Roman history, 14th century Italian history, early modern French history, modern American history, turn of the century German history, early 20th century Japanese art history, and Revolution-era French history. 

The overall mood was that of attentive concentration as the audience listened to the arguments. After each talk concluded, the audience had insightful questions that often pushed the presenters to think even deeper about the various directions their research could go. The presenters thought carefully about the questions posed to them before answering and were effusive in their thanks to the audience members.

After the first round of presentations, organizer Dr. Koji Yamamoto talked about the importance and history of the showcase and what they hope to accomplish through the hosting of this event. Dr. Yamamoto spoke about the benefits the participants of the showcase gain, including being accepted to conferences, getting feedback to improve their research, and being published in peer-reviewed journals. He also thanked The University of Tokyo for their generous grant that allows them to continue with the showcase and expanding the scope of their activities. In addition, he offered his thanks to Dr. Hopson as well as Dr. Julia Yongue from Hosei University, who specializes in business history, for coming to offer her feedback on the event.

After the main presentations had concluded, Dr. Yongue gave a helpful talk on how to improve the future presentations of research by PhD and Masters candidates. Her tips and specific feedback, based on the presenters from the previous showcase, as well as general tips were informative and engaging.

The audience then voted on the Best Presentation of the evening. This prize is awarded to the presentation with the best content, reasoning, and discussion of results. Two presenters tied for first place due to the combined excellence of the collective presentations. Jun Abe from Tōhoku University and Ayaho Harada from Nagoya University were presented their awards by Dr. Yongue. Mr. Abe and Ms. Harada were chosen due to their effective use of evidence, clarity of argument, and relatability in relaying the content of their research to others outside their field. In addition, they demonstrated a great deal of insight when answering questions after their initial presentations on the attitudes of African-Americans towards the Japanese redress movement and Modern Japanese painting in the early 20th century, respectively.

当日のスピーカーやオーディエンスの皆さんにお答えいただいたアンケートより一部紹介します。

オーディエンスA
I learnt a lot about many topics that I never thought about. I would like to know the situation for foreigners doing the academia in Japan, what are the differences, how to join, and some other general information how to get published.

オーディエンスB
自分は日本のことをメインにやっているので、7月の日本史・文学のようなイベントが今後どんどん増えると素晴らしいと思います。

まとめ
今回はたくさんの留学生の方も参加していただき、興味深いフィードバックもいただきました。運営側も多様な開催の形について示唆を得られました。次回の7月日本文学・日本史Research Showcaseをどうぞご期待ください!