開催報告「配信時代のアウトリーチ」

歴史家ワークショップでは、去る9月25日に社会発信イベント「配信時代のアウトリーチ」を開催いたしました。その報告を、小山田真帆さん(京都大学大学院)に執筆いただきましたので、以下に掲載します。

アーカイブ動画もあります!

2021年9月25日(土)、「配信時代のアウトリーチ」がYouTubeの生配信にて開催された。YouTubeのチャットおよびTwitter上で視聴者から質問やコメントが寄せられ、それらをリアルタイムで拾いながら登壇者とのやり取りが行われた。「配信時代」という言葉通り、現在多くの人々がYouTubeやpodcastといったツールから情報を得ている。こうした配信ツールは情報を受け取る側のみならず、コロナ禍の影響もあり、発信する側の研究者にも広く利用されるようになってきている。しかし発信方法の手軽さから、日本語でアクセスできる歴史関連の情報は玉石混淆といった様相を呈していることも事実である。本企画はこうした状況をふまえて、研究者(大学や研究機関に籍を置く人に限らず、学術的バックグラウンドを持つ人)がどのようにアウトリーチの場としてオンラインメディアを活用していくべきか、議論を促進すべく開催された。

登壇者として、現在YouTubeを含む多くのSNS上で学術的な情報発信を行っている藤村シシン氏(古代ギリシャ研究家)とヒロ・ヒライ氏(コロンビア大学リサーチ・アソシエイト/ルネサンス学)をお招きした。お二人にご自身のアウトリーチ活動についてお話しいただいた後、全体でディスカッションを行った。

趣旨説明

はじめに企画者の吉田瞳氏(京都大学大学院博士後期課程)より、上記のような配信ツールの活況とアウトリーチ活動との関係について説明があった。歴史に対する関心はアカデミアの外にも広がっており、学問的な訓練を受けていない人も歴史について学んだり話したりする。様々な情報が溢れる中で、その真偽を見抜く受け手側のリテラシーももちろん重要だが、本企画では発信者の視点から、どのように自分の研究を社会に届けるかを考えたいとのことだった。また、研究者が発信するものだけが価値ある情報ではないということも付言し、アカデミア内外における歴史の語りを健全に繋いでいくために有益な参考文献として、菅豊・北條勝貴編『パブリック・ヒストリー入門』(勉誠出版、2019年)、イヴァン・ジャブロンカ(真野倫平訳)『歴史は現代文学である』(名古屋大学出版会、2018年)が紹介された。

藤村シシン氏のお話

藤村氏は古代ギリシャ史で修士号を取得し、2014年頃から講師・メディア出演・出版や企業コラボレーションなどでアウトリーチ活動を本格化させた。既に関心のある人以外にも裾野を広げるべく、幅広い層の興味に訴えかけるイベントは何かを考え、「古代ギリシャナイト」の企画を始めたということだった。イベント運営の役割分担など具体的なお話も伺うことができた。また、知識や興味の薄い人にも届けるために、聞き手の具体的な像を設定し(藤村氏の場合は「高校時代の自分」)、その人が理解しやすく面白いと感じてくれるような構成を考えている、とのお話は、非常に実践的でありがたいアドバイスであった。一方で課題として、オンライン化が進むほど視聴者の分断が生まれる(興味のあるコンテンツしか目に入らなくなる)という現状があり、一つのメディアの中で閉じないようにすることや、視聴者との一体感のあるイベント開催方法の模索などについてもコメントをいただいた。

ヒロ・ヒライ氏のお話

ヒライ氏はルネサンス期の魔術や錬金術を専門とし、博士号取得後1999年からウェブサイトbibliotheca hermetica(BH)を開設、そこでの読者との交流から読書会やセミナーの主催を開始した。その後多くのSNSを用いたアウトリーチ活動を始めたという。YouTubeチャンネル「BHチャンネル」での活動はコロナ禍を機に本格化し、新刊紹介や研究者との対談といったコンテンツを公開している。ヒライ氏のお話では、YouTubeでの発信における多くの試行錯誤が印象的だった。視聴者が置いていかれないよう、自身も専門知識のない一般読者の立場でゲストへのインタビューを行っていること、視聴者の年齢層やジェンダーを分析し、より広い範囲の人に届くようコンテンツに工夫を加えているとのことだった。また、常に新しいメディアに挑戦するという姿勢には驚かされた。メディアごとにフォロワー層が違うとのお話もあり、藤村氏の指摘した「単一のメディアに閉じこもらないこと」の重要性がここでも共有されているように感じた。

全体討論

吉田氏から、正確さよりも伝わりやすさを重視して専門用語を手放すことが不安であるとの意見が上がった。視聴者コメントでは、学術的な内容を扱う動画だとカタカナ語がわかりにくいことがある、専門用語を使った場合は編集で説明を入れてほしい、などの意見が寄せられていた。登壇者のお二人からは、たとえ専門用語を使うとしても、親しみやすい装いや話し方を心がけることで聞き手の心理的抵抗をなくすことができる、との回答があった。ただし、客観性が求められる研究者には自分の個性を出すのが難しいというジレンマもあり、なかなか一筋縄ではいかない問題であるように感じられた。

また、漫画・アニメ・ゲーム等サブカル作品を通じたアウトリーチや、クリエイターとの協働に力を入れたいという話題も上がった。作品を通じて歴史に興味を持つ人々も多く、視聴者コメントでも「この作品の解説をしてほしい」といった具体的な意見が多数寄せられた。歴史に取材した創作作品を研究者が監修・解説することは、学術的成果を広く共有できるだけでなく、創作の限度を超えた不正確な歴史認識が広まることを防止する効果もある。しかし、それが学問から創作活動への「介入」や「圧力」だと考えられてしまっては本末転倒だろう。もし研究者と創作者の協働がネガティブに受け止められる恐れがあるのだとすれば、その誤解を解いていく必要がある。吉田氏からの趣旨説明とも繋がるが、歴史と物語は相容れないものではなく、歴史は専門家の専有物ではない、ということもまた発信していかなければならないだろうと感じた。

本企画では沢山のお話を伺うことができたが、特に重要な点として共有されていたのは①専門性とわかりやすさのバランス、②メディアの拡張性、③創作作品との接続、の3点だったように思う。議論は終始和気藹々とした空気で進行しながらも、実践的なアドバイスも問題提起もあり、真摯で有意義な内容であった。登壇くださった藤村さん、ヒライさんと企画者の吉田さんにお礼申し上げたい。

当日のTwitterでのさまざまな反応は、こちらにまとめてあります。ぜひ併せてご覧ください。
【歴史家ワークショップ】配信時代のアウトリーチ

スキル・ワークショップ「歴史地図を描く」開催報告

去る7月27日、スキル・ワークショップ「歴史地図を描く —研究発表に使える作画法—」が開催されました。その内容について、参加者の北川涼太さん(広島大学)にレポートを執筆していただきましたので、以下に掲載します。

趣旨説明

2021年7月27日(火)の19時から、スキル・ワークショップ「歴史地図を描くー研究発表に使える作画法ー」がオンライン形式で開催された。研究報告や論文執筆に際して、当時の状況を示した地図を利用しなければならない、あるいは利用したいと思うことは多い。しかし自分のニーズに合った地図を見つけ出すのは困難であり、だからといって手書きで作成するとしても、膨大な手間と時間がかかってしまう。

今回、講師を務めていただいた衣笠太朗先生(秀明大学)は、著書『旧ドイツ領全史ー「国民史」において分断されてきた「境界領域」を読み解く』(パブリブ、2020年8月)執筆時に、こうした歴史地図をめぐる問題と向き合うこととなった。衣笠先生は歴史地図や製図の専門家というわけではなく、試行錯誤の末、インターネット上のフリーデータとフリーソフトを用いて歴史地図を作成するという方法にたどり着いたのである。

ワークショップの概要

ワークショップは、レクチャー編と実践編と2パートから構成された。

まずレクチャー編では、衣笠先生が30分ほど、デジタルを用いた歴史地図作成のプロセス、とくにその際使用するフリーデータとフリーソフトについて説明された。デジタルで歴史地図を作成するメリットは、地図の加工・編集が容易なことである。手書きであれば、下敷き地図やトレーシングペーパーなどを用意しなければならず、完成までに数多くの工程をこなさなければならない。そしてやっと仕上がった完成品も加工がしづらい。それに対してデジタルでは、インターネットから編集用のフリーソフトとフリーの地図データを入手することができ、自由に変形したり編集することが可能で、さまざまな形で利用することができる。しかも、作業に使用するパソコンは、とくにスペックが高くなくても問題ない。歴史地図作成のために、専用の作業環境を整える必要がないのである。

具体的なプロセスは、フリーの白地図データと、その下敷きとなる歴史地図のデータをダウンロードした後、フリーソフト上で両者を重ね合わせ、下敷きの地図から白地図へ必要なデータ(地形・境界線・都市など)をトレースしていくことになる。その際、使用する白地図のデータはベクター画像でなければならない。ベクター画像であれば、画像を縮小・拡大・変形したとしても乱れることがない。

そして実践編では、1時間程度の時間をとり、16世紀神聖ローマ帝国の歴史地図を実際に作成した。参加者は、衣笠先生の作業の様子を見ながら、気になった点を質問したり、自分の手元で同じ地図作りを体験することができた。レクチャー編で基本的な流れが説明されていたとはいえ、いざ地図を作るとなると、いろいろな細かい問題に出くわすこととなる。この実践編では、そのつど疑問点を質問しながら、歴史地図が作成されていく過程を確認、あるいは実際に体験することができた。

参加者の意見(アンケート結果より)

よかった点

  • 口頭での説明に加えて実際の作業の様子を見ることができ、地図作成プロセスのイメージを持つことができた。
  • 掛け合いで進む方式のため、一人がまとめて講演するより、飽きることなくわかりやすかった。
  • 地図作成は教員の仕事(授業資料やテスト作成など)でないと困る技術だが、直接情報を得ることが難しい。今回の企画はまさに「かゆいところに手が届く」企画だった。

気になった点

  • 実践編で、細かい作業に集中していたら、全体でどの作業について説明しているのかわからなくなってしまった。チャットで、現在どの作業について説明しているのか知らせてほしい。
  • 未経験者に2時間半(休憩無し)はしんどく、途中で集中が切れてしまった。
  • 衣笠先生が紹介された方法より、もっと効率的なやり方がある。そちらについても紹介してほしい。

企画・司会:吉田瞳(京都大学大学院文学研究科博士後期課程・ドイツ中近世史)
執筆:北川涼太(広島大学・博士課程後期)


※運営追記

講師の衣笠先生のご厚意により、当日のワークショップの様子をYouTubeにて公開する許可をいただきました。以下にリンクいたしましたので、ぜひお役立てください!

西洋史学会ワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える:教室での実践から」 開催報告

2021年5月15日、第71回日本西洋史学会大会にてワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える:教室での実践から」を開催しました。その目的は、大学で西洋史を教えるにあたり、学生に何を伝え、何を学んで欲しいと考えているのか、いかなる工夫をし、いかなる悩みを抱えているのかを率直に話し合い、意見交換することです。日々の授業でどのような試行錯誤がなされているのか、教育と研究はどのような関係にあるのかについて、登壇者2人にご自身が担当する講義科目を例に取った話題提供を、コメンテーター1名にコメントをいただいた後、質疑応答が行われました。

森谷公俊氏の話題提供「中堅私立大学における西洋史の授業実践」は、西洋史を教える場合でも、学生にまず身につけてもらいたいのは日本語を読み書く力であるとし、問いを工夫した課題を出し、学生が文章を書く機会を多く設け、さらに教員が手を入れることの重要性を説きました。また通史であっても教員の関心を授業内容に積極的に反映させる、特殊講義では日本語訳された史料の提示と批判を行い、歴史学研究の実際を例示する、授業内容を変更した際あるいは前年と内容を変えなくても直前の復習が不十分であった場合に失敗するといった経験を語りました。さらに教育と研究の関係について、研究成果が教育に生かされるのは当然としても、目の前にいる学生に理解してもらうような語りの工夫が、論文や書籍の執筆に、つまり研究にも生かされると指摘しました。

八谷舞氏の話題提供「教養教育としての西洋史」は、現在の担当している授業、とりわけ西洋史の通史での実践を振り返りました。八谷氏も学生が将来社会に出た際に必要になる、情報を分析、解釈し、論述する力を身につけることが重要だとし、大学入試問題を使った論述の練習や日本語史料の読解によって高校での世界史から大学での歴史学への架橋を試みていることに加え、「大学レベル」の担保のために『論点・西洋史学』から最新の学説や重要な論争を紹介していることについても触れました。日本語訳の史料集は学生と一緒に考える気持ちで読んでおり、極めて有用であるが政治史への偏りが見られること、やり方によっては歴史学の授業はオンラインの授業形態と相性がよいという指摘もありました。また英語で実施する授業についても触れ、西洋史研究者にこれから求められる教育上の役割も紹介しました。

コメンテーターの津田拓郎氏は2人の実践を高く評価しつつも、実際の担当授業数によっては実践が難しいという疑念を、ご自身が常勤職に就く前の状況を振り返りながら指摘しました。そして働きすぎないためにも一定の線引が必要で、例えば各回の授業で学生に伝えたい主張を思い切って絞り、それを伝えるように注力するのも必要なのではないかと述べました。また、授業実践の紹介は有益であるが、系統だってまとめて発表されることでさらに効果が上がるのではないかと指摘しました。

その後フロアから、学生のレポートへのフィードバックの方法、漫画や映画などフィクション作品の活用の仕方、うまくいかなった授業をどの時点でどのように修正するのか、西洋史の知識をどれほど身につけてもらうべきなのか、西洋史を学ぶことで特に得られる社会の諸問題への意識や物の見方というものを意識しているのか、外国語をどの程度・どのように使うのかといった疑問が出され、登壇者からの応答がありました。

アンケートでは、本ワークショップからポジティブに捉えられたこととして以下のような回答が得られました(一部表現を変えたところがあります)。

  • 教育活動を実践する中での現実的な目標、可能な範囲、課題、限界をどう捉えられているか知ることができて、参考になった(常勤教員)。
  • 学生の前提知識やレベルによらず、工夫次第で関心ややる気を引き出して授業を展開できるのだとわかった(常勤教員)。
  • 大学における授業実践については、自分が参加していた授業あるいは懇親会等の場で聞いたことから知見を得ていたが、お話を聞く機会のない方々から、ある程度の長さの時間をかけて実践内容や考えを聞けた(学生)。

また、より深められるべきだったこと、不満に感じたこととしては以下のものがありました。

  • 歴史学だからこそ、西洋史だからという学問特有の意義をどう伝えるかをもう少し考えてみたかった(常勤教員)。
  • 教育上の課題や限界がもっと話し合われて、明確な問題提起がなされてもよかった(学生)。
  • 偏差値的な学力指標だけで学生のポテンシャルをくくることの危険性も感じてしまった(学生)。

全体として、教育の現場について率直に語られていたことが励みになった、現実的・具体的な実践例が聞けて良かったという感想が多く寄せられました。一方で、今回の西洋史学会大会には学部学生の参加も多かったにもかかわらず、学生の参加を前提とした配慮がなされていない発言があったという批判をいただきました。この点は真摯に受け止めて、今後の企画に反映させていきます。

本ワークショップは大会特別企画シンポジウム「歴史総合の史学史」の直後に行われたこともあり、最大で240人ほどの参加者を得ました。本ワークショップが参加者それぞれにとって大学で西洋史学を教えること、そして学ぶことはなにかについて、改めて考えるきっかけとなったのであれば幸いです。遅い時間に参加してくださった皆さま、そしてワークショップの開催を認めてくださり、全面的なサポートをしてくださった第71回日本西洋史学会大会準備委員会の皆さまにお礼申し上げます。

高橋亮介

フランス語版リサーチ・ショウケース Ma recherche en 8 minutes 開催報告

2021年2月22日に、第1回フランス語リサーチショウケース : Ma recherche en 8 minutes をオンラインで開催しました(プログラムはこちら)。当日の様子を、本ワークショップのスピーカーの一人である須田永遠さんが報告してくださいました!

フランス語での初開催となった今回のリサーチ・ショウケースでは、政治史、宗教史、思想史、美術史、教育史、文学と、実に多くの専門をもつ9名のスピーカーが集まり、それぞれ8分間で自身の研究のエッセンスを紹介したのち、7分間の質疑応答にのぞみました。

当日の司会は、名古屋大学教授で18世紀科学史がご専門の隠岐さや香先生が、コメンテータは国際日本文化研究センター教授で、比較文学比較文化・文化交流史がご専門の稲賀繫美先生が務めてくださり、常時40名以上の参加者によって活発な議論が交わされました。

会の最後には、オーディエンスの投票により、発表内容や構成・議論の進め方等に基づき Research Showcase Prize の受賞者が選ばれ、今回はフランスの初期写真史について発表された、東京大学大学院博士課程1年の鈴木実香子さんが受賞されました。

日本で研究を行う仏文研究者にとってフランス語で発表する機会はそう多くありません。私自身、留学を経験し、大学院でフランス文学を学ぶ身でありながら、帰国後はフランス語で発表する機会(そして質疑に対し応答する機会)はほとんどありませんでした。また、自分の研究を8分という短い時間にまとめ、他の専門分野の方に伝えるには、普段の研究発表とは別の組み立て方が必要になります。

参加を決めたものの、当初はフランス語で発表することへの恐怖——何より質疑応答の7分間、質問に答えられない不安より質問そのものを聴き取れない恐怖——とプレッシャーに苛まれていたのですが、発表前にスピーカーのみなさんと顔合わせをした際、だれひとり例外なく緊張していることを知ってやや安堵するとともに、イベントがはじまってからは司会の隠岐先生から「質問を聞き直すことを一切ためらう必要はない」というスピーカーの指針が周知徹底されたこと、また、ギャラリーのあたたかな雰囲気が背中を押してくれました。イベント中は終始司会の隠岐先生をはじめ、コメンテーターの稲賀先生や参加者の多くがイベントを良いものにしようという意志を持ち、発表者の論点を尊重しながら鋭い質疑と真摯な応答が交わされたように感じます。みな外国語で研究の要点を発表することの困難と苦労を分かち合っているからこそ、このような素晴らしい場になったのだと確信しています。

今回のリサーチ・ショウケースで最も印象的であったこと、それは意見を述べることがそのまま相手の感情や信頼を損なうことを意味しない、すぐれて‘‘成熟した’‘場であったということです。こうした場に立ち会うことのできる機会をいただいたことを司会、コメンテータの先生方、運営委員の方々、レビュワーの先生方、参加者のみなさまに心より感謝いたします。どうもありがとうございました。


そして、今回発表されたスピーカーの方々には、後日アンケートに回答していただきました。以下では、その一部をご紹介します。

準備と発表を通して楽しめたこと、苦労したこと

楽しめたこと:外国語でアウトプットするという作業そのもの。留学経験がなく、キャリアが浅いと、なかなかこういった機会はないが、今回の機会を頂いて2ヵ月少々、準備期間は常に楽しめた。
苦労したこと:何よりも時間制限への対応。しかし、8分で報告を完結させるという経験を通じて、外国語での発表練習に留まらないそれ以上のものを得られた気がする。

(苦労したこと)フランス語で発表する一方、聞き手が日本人(それも異分野の研究者)である点で、用語の選定や説明の方法に苦労しました。稲賀先生も指摘されていましたが、研究者としてフランス語で何かを発表するときには、「フランス語圏出身」という背景を持つ人を相手にすることが想定され、日本人の発表者としての研究の特徴などを意識して発信することになると思います(もちろん第二言語としてフランス語を使う人口も多いので、この限りではないですが、英語に比べれば頻度は高いと思います)。原稿を書き始めた時、まずこの問題に直面して、消化しきれずに終わってしまいました。研究者として今後も考えて行かなければならない問題だと思います。

フランス語で学術的な文章を書くのがほとんどはじめてのことだったので、やはり初稿の作成に一番苦労しました。これにだいたい、10日間くらいかかりました。その後、レビュアーの先生からコメントをいただくのですが、これを読むのがとても面白かったです。というのも、文法や表現に限定されないコメントによって、蒙がひらかれ、今後の課題がよく見えるようになったからです。

今後の参加者と共有できそうなこと

もし可能なら、ネイティブ相手でなくとも良いので、リハーサルをする。発音を直してもらえたり、PowerPointの不備を指摘してもらえたりと、発表の質が上がる。
もし原稿の執筆過程で削ったところがあるのなら、質疑応答に備えて残しておく。「発表に欠けている部分」であることに変わりないので。
他の発表者のレベルが想像以上に高かったとしても、凹まない。分野も異なれば、キャリアも違う。乗り切った自分たちを褒めるべき。

限られた時間の中で自分の研究の要点を伝えるにあたって、情報を適切に取捨選択すること。

リバイズのときに、こんな質問がくるかも、ということを考えながら、何を残し、どこを削り、あるいはここは補足説明を足す必要がある、などを考えることは、当日の質疑の緊張対策としても、表現の幅を広げるうえでも有益でした。

Research Showcase への参加が今後のキャリアと研究にどのように役に立ちそうか

自分の研究の要点をフランス語でまとめる(かつ、覚える)ことになったので、留学や国際学会でストレスなく会話が出来そう。
フィードバックでの指摘を受けて、ざっくり削る勇気を持てた。自分がこだわりたいところと、聴衆にとって大切な情報とを、分けて考えられるようになった。

今後フランス語圏での発表に向けての練習になったのは勿論のこと、ここまで分かりやすさに拘って報告準備したことは意外になかったので、普段のゼミから学会報告まで、あらゆる研究報告に向けた意識改革になった。
原稿のフィードバックでは、簡潔明瞭さを意識しつつも、口頭報告ではどの語を指すか聞き手に考えさせてしまうような代名詞の使い方は避けねばならない、という教訓を得た。

仏語での執筆や発表がはじめてだったので、出来栄えはともかく、それをやり遂げることができたことに自信をもつことができました。今後、国内外での発表に挑むための経験を積むことができたかなと思います。


まとめ

以上、フランス語版リサーチショウケースは初回開催でしたが、日本各地、そしてフランスやスイスからの多くの参加者を得て、盛況のうちに終えることができました。隠岐先生、稲賀先生をはじめ、レビュアーとして発表者の原稿に多くの貴重なご助言を与えてくださった先生方、当日お越しくださった参加者のみなさんに心から感謝いたします。好評につき、フランス語版リサーチショウケースは第2回開催を予定しています。英語版と併せて、次回告知にご期待ください!

2020年度 Coffee Time Series 開催報告書

2020年度、歴史家ワークショップでは、大学院生の研究生活をサポートするイベントシリーズ Coffee Time Series の開催を支援してきました。本イベントシリーズの取り組みは、当事者でもある大学院生が運営を担った点においても画期的です。その詳細について、運営チームの皆さんに報告書を執筆いただきましたので、ここに公開いたします。

Coffee Time Series は、気軽に研究の楽しさや研究にまつわる悩みを共有し助け合える場を作りたいという思いから始まったイベントシリーズです。国内外の博士課程に在籍する大学院生が中心となって運営を行なっています。一連のイベントを通じて、孤独になりがちな大学院生・研究者が分野を横断して集まること、またアカデミアの外にいる方々とも人間的なつながりを構築することを目標として、2020年度中に計4回のイベントを開催しました。

第1回「博士課程におけるチャレンジ」(2020年7月10日開催)

初回は、「博士課程におけるチャレンジ」をテーマに、近世オランダ宗教史を専門とされている安平弦司さん(日本学術振興会特別研究員CPD)をゲストにお迎えし、25人ほどのオーディエンスの方とも話し合いの場を設けました。

安平さんにはオランダ・ティルブルフ大学での博士課程留学中での体験を中心に、研究と留学生活についてお話しいただきました。トークでは、まず、研究者を志したきっかけや動機を交えつつ、ご自身の経歴を紹介していただいた後、ラテン語やオランダ語の手書き文書の解読と英語での執筆、現地での住宅探しの困難、奨学金や助成金の獲得など、オランダでの研究生活について詳細に振り返っていただきました。また、博論執筆のスピードを上げるための具体的な方法論についても言及していだたき、実際に実践したライフハックについてお話しいただきました。安平さんからのトークに続くディスカッションでは、実際の学位取得の方法やその後のキャリア形成などについての多数の質問が、参加者の大学院生から出ました。事後アンケートでは「海外生活における困難な状況に直面する場合について、ご本人の具体的な経験を例に語られ、多くの方々がご自身の持つ経験も一緒に共有していたところなどが良かった」というご意見をいただきました。

安平さんに博士課程での実際の悩みを打ち明けていただくことで、参加者が話題を共有しやすい回となったと思います。企画者の僕自身、現在博士課程留学を行っている毎日の生活の中で共有できる悩みがいくつもあり、「自分ひとりだけが持っている悩みではないんだな」と安心しました。院生や Early Career の研究者が他の人と人格的な繋がりを作る場として Coffee Time Series が、面白いイベントとなったことが非常に嬉しいです。(槙野)

第2回「研究と育児」(2020年9月11日開催)

第2回は、「研究と育児」をテーマに、中近世エジプト史がご専門の熊倉和歌子さん(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教)をゲストスピーカーとしてお招きし、37名の方が参加してくださいました。熊倉さんには、「ある歴史研究者の育児・仕事・研究・生活」と題し、今回のトークの内容もあくまで一例であると断ったうえで、就職活動と出産から現在までのご自身の生活、育児・仕事・研究・生活の両立のために実践している工夫、学界への要望についてお話しいただきました。

トークでは、まず、博士号取得から就職活動と出産、出産後の仕事・研究への復帰、子育てしながらの研究や仕事、現在の日常生活などの具体的なご経験について共有してくださいました。次に、実際に工夫されている点として、パートナーとのスケジュール共有や家事の効率化など家庭のマネージメント、机に向かわないとできない作業とそうでない作業の仕分け、研究者コミュニティからの孤立を避けるための共同研究の積極的活用を挙げられました。また、学界に望むこととして、学会などのイベントは平日9時から17時までの時間帯での開催を基本としてほしい、休日開催の場合は託児所を用意してほしい、さらに公募の際には雇用条件や給与の額を明確にし育児中の研究者への支援の意思を示してほしいという要望を提示されました。その他に、大切だと思うものとして、研究したい気持ちを諦めずに持ち続けること、話のできる環境や助言をくれる人の存在などに言及されました。最後に、人生設計は特にしていなかったが、余裕のあるときに着実に研究を進めて蓄積を作っておいたことで、いざというときに自分を救ってくれるリソースが培われていたというお話がありました。

このイベントには事前質問も多く寄せられ、参加者の関心の高さが窺えました。また当日のディスカッションや懇親会でも、多くの方がご自身のご経験や悩みを共有してくださいました。ディスカッションでは、まず、ドイツに留学しながら子育てをしている纓田宗紀さん(アーヘン工科大学)から、熊倉さんのトークへのコメントとご自身のドイツでのご経験を紹介していただきました。他の参加者の方々からも多くの意見や質問が集まり、保育園探しの苦労、予定を立てることの難しさ、また学会の際に託児サービスがあっても開催地まで公共交通機関を使って連れて行くのがそもそも大変といった経験談には、子育て中の参加者のみなさんが強く共感されていました。また今後子育てに臨もうとする参加者の方からは、出産のタイミングや託児サービスの確保に関する悩みが寄せられました。しかし、このような様々な困難や苦労がありながらも、子供の存在が研究や仕事へのモチベーション維持につながっているというお話もありました。事後アンケートでは、「ゲスト以外にも子育て中の方の状況を聞けて良かった」、「同業者かつ同世代で情報交換できる人が身近にいなかったので参加できてよかった」などのご感想をいただき、同じテーマで他の研究者の体験談も聞いてみたいという要望も多く寄せられました。

イベントの中では、これまで私自身あまり話を聞く機会がなかった育児を含む研究者の具体的な生活と仕事・研究のお話を伺うことができ、自分のライフプランやキャリア形成を考える上でも非常に参考になりました。熊倉さんや参加者の方々のご経験談を伺う中で、自分の将来の生活について抱えていた漠然とした不安が少し解消されたように思います。またイベントの企画を通じて、このような情報交換の場が切実に必要とされていることを実感しました。熊倉さんが提示してくださった学界への要望を実現し、研究者が自身の生活において多様な選択をしつつ誰もが研究を楽しく続けていくことのできる環境づくりを進めるために、自分のできることを実践していきたいです。(大津谷)

第3回「アカデミア外の仕事と研究」(2020年12月11日開催)

第3回は、「アカデミア外の仕事と研究」をテーマに、中村優子さんをゲストにお招きしました。中村さんは、近代(戦前)東京における女性の移動・公共空間利用行動について博士論文を執筆された後、外資系企業に User Experience Researcher として勤務されています。中村さんには、27名の参加者に向けて、博士論文執筆中から一般企業でお仕事されていた経験を対談形式でお話しいただきました。

対談では、事前に参加者の方から質問を集った上で、主に博士論文執筆中の活動、現職に就くまでの道のり、現在のお仕事の三点を軸に中村さんにお答えいただきました。特に、建築学の中でも歴史的・社会史的アプローチを利用して博士論文を執筆された中村さんがこれまで経験されたお仕事の内容、博士論文と仕事との両立の仕方、現在のお仕事と研究活動で得た能力の繋がりについて、詳細にお話しいただきました。現在のお仕事は、博士課程でのご研究に直接関係しているわけではないものの、研究活動に不可欠なリサーチを実行する・情報を集める能力等は現在のお仕事にも活きる重要な能力であると述べられました。また、アカデミア外での就職を選択した理由についても具体的かつ率直にお話しいただき、自分の興味関心や適性を明確にした上で将来のキャリアについて考えることの重要性を指摘されました。

将来のキャリア形成・支援といったトピックは特に参加者の方の関心の高さが窺え、全体でのディスカッションや懇親会でもこの点について活発に議論が交わされました。特に文系の場合、アカデミア外でのキャリアを描きづらい、周りにロールモデルが少ないといった悩みがあり、なかなか企業で働くイメージがつかみにくいという声が挙がりました。中村さんからは、研究活動を通じて得た能力を一般企業の仕事にも応用できるとのお話があり、アピールポイントをつくることが重要であるとのご指摘いただきました。また、就職までの具体的なステップについて、最初のキャリアの積み方、CVでのアピール方法、博士課程学生の採用に積極的な企業の探し方、その他ウェブサイトなどについて情報交換が行なわれました。

イベント後には参加者の方から、アカデミア外でも様々な選択肢があるのだと前向きに考えられるようになったといった声をいただきました。引き続きアカデミア外で活動されている方の経験談をもっと聞いてみたい、企業の採用担当の方の意見も聞いてみたい、などのご意見もいただきました。院生や若手研究者にとってキャリア形成についての悩みはつきものですが、研究者が能力を活かしつつ多様なキャリアパスを描いていけるようになるための一歩として、参加者の方々と様々な視点や情報を共有できたことを嬉しく思います。(赤﨑)

第4回「研究にまつわる悩みの分かち合い」(2021年2月26日開催)

第4回は、「研究にまつわる悩みの分かち合い」をテーマに、運営メンバーと参加者の皆さんで「当事者ミーティング」を行ないました。研究を進めていくうえで、文献の読み方や整理の仕方、モチベーションの維持、研究と育児・家事・介護とのバランスなど、さまざまな悩みに出くわします。しかし、そうした悩みを誰かに相談したり、吐き出したりできる機会が少ないのではないか——そのような問題意識に基づくものです。

今回用いた「当事者ミーティング」という手法は、歴史家ワークショップが2020年6月に開催した「セルフケア・ピアサポートWS」において、一般社団法人リヴオンさんからご紹介いただきました。近い立場にある当事者間での問題解決や、各自が実現したいことの手がかりとなる「次の一歩」を見つけるための対話型ワークショップです。3-5名程度のグループに分かれたのち、ファシリテーターの進行に沿いながら、まずは1名が、「気になっていること」や「困っていること」「実現したいこと」を打ち明けます。他のメンバーは、いろいろな質問をしてその悩みの中身や背景などを掘り下げ、ついで、その解決に向けた自分なりのアイデアを出していきます。この一連の過程を通して、悩みを打ち明けた人もアイデアを出した人も、メンバー全員がそれぞれの問題解決・目標実現の手がかりを見つけることが「当事者ミーティング」の狙いなのです。

今回は、「セルフケア・ピアサポートWS」の運営に携わった藤田風花さん、安平弦司さん、吉川弘晃さんにご協力いただき、運営メンバー全員で事前にファシリテーションの練習をした上で、当日は合計16名を3グループに分けて「当事者ミーティング」を実践しました。じつは「参加者の多くが初対面、しかもオンラインという環境で、発言するのがなかなか難しいのではないか」という一抹の不安を企画者は抱いていたのですが、実際には、どのグループでも積極的に質問・アイデア出しが行なわれ、イベント後に実施したアンケートでも、「研究へのプレッシャーが軽減された」「(今まであまりなかった)他大学の院生・若手研究者と話す機会となり、充実した時間だった」といった、ポジティブな感想をいただきました。

新型コロナウイルスの感染拡大により、研究にまつわる悩みや、それを相談できる人間関係の断絶が深刻化する中、今回のような分かち合い、助け合いの場が必要であるとあらためて実感しました。今回参加してくださった皆さんも、この経験を生かして、自分のまわりにいる人たちと一緒に、ぜひ「当事者ミーティング」を実践していただけると嬉しいです。(北川)

総括・2021年度に向けて

2020年度、Coffee Time Series では、以上4つのオンラインイベントを開催しました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大後に開始されたこのシリーズではオンラインで初めて知り合いになった運営メンバーもいる中で、互いに支え合い、楽しみながら、一連のイベントを企画・運営することができました。加えて、イベントの企画・運営やファシリテーション、ピアサポートの実践などにおいて、それぞれのスキルアップを実感するとともに、立場や環境の異なる他者を理解するための意識を高めることができました。また、一連のイベントを通して、研究生活の楽しさや悩みを共有・共感したり、研究者のライフプランやキャリアの選択肢について考えたりする機会を提供できたと思います。

2021年度も引き続き、研究の楽しさやワークライフバランス、研究者のキャリア、ピアサポートなどをテーマとしたイベントを実施していく予定です。今後も、Coffee Time Series が気軽に悩みを共有できる支え合いの場として機能し、誰もが楽しく研究を続けていける環境作りに寄与できること、またイベントを通してより多くの方とお会いできることを願っています。今後扱ってほしいテーマや Coffee Time Series の運営に参加したいという意欲をお持ちの方は、こちらよりお気軽にご連絡ください

2020年度 Coffee Time Series 運営メンバー(五十音順):
赤﨑眞耶
市川佳世子
大津谷馨
纓田宗紀
北川涼太
篠田知暁
藤田風花
槙野翔

第12回 Research Showcase 開催記録

阿部純(12thリサーチ・ショーケース運営委員)

第12回Research Showcaseを2月18日にzoomで開催しました。今回は、当初予定の東北初の現地開催からオンライン開催に切り替えての実施となりました。

今回は日本宗教史分野からの発表者をはじめ、生物学史やタイ建築史、近現代ドイツ外交史、英国現代史からの発表者も集まりました(当日のプログラムはこちら)。司会を東北大学のオリオン・クラウタウ先生が担当し、同じくクラウタウ先生と東北大学のクリントン・ゴダール先生がゲスト・コメンテーターをつとめました。

ゴダール先生はプレゼンテーションにおける重要なポイントを3つに分けて説明しました。第一に、自分の主張を、複数ではなく「1つ」の「大きな結論」として示すことです。オーディエンスの記憶に留めて欲しいことを1つに絞り、それを結論として示すよう心がかけることが重要だと述べました。第二に、先行研究と自分の報告の違いを明確にすることです。報告の方向性をオーディエンスに伝えるためにも、先行研究の問題点と自分の報告の正当性を、最初の段階で述べておくことが重要だと指摘しました。最後に、パワーポイントについて、スライドに多くの情報を詰め込むのではなく、簡潔なものにする必要性を示しました。

クラウタウ先生はゴダール先生のお話を踏まえつつ、日本の学会と国際学会における報告方法の違いをご自身の経験を例に出しながら説明しました。その上でクラウタウ先生が最も強調したのは、プレゼンテーションのイントロダクションで、自分の研究がいかに新しいのか・新規性があるのかを示すことの重要性です。研究の目的のみならず、その研究を行う意義を説明することが必要であり、最初のスライド1~2枚で研究史とその問題点を踏まえておくことで、報告の目的・内容・結論の新規性をオーディエンスが理解できると述べました。

今回のResearch Showcase Prizeには、戦後日本のオカルト言説について報告した東北大学大学院国際文化研究科の韓相允さんが、オーディエンスの投票によって選ばれました。おめでとうございます。

今回も発表者の方々に、アンケートに協力していただきました。以下、その一部を紹介します。

今回の Research Showcase での準備・発表を通して 一番楽しめたこと、苦労したことをそれぞれ出来るだけ具体的に教えてください。

  • 楽しめたこと:普段参加する学会と異なり専門的に違う人達の発表を聞くことができたこと。苦労したこと:原稿の校正や修正。いろいろな方にフィードバックを貰って前日まで細かい修正をしました。
  • 異なる専門分野の研究者に自分の研究のエッセンスを短い時間で伝える機会はこれまであまりなかったため、レビュワーとのやり取りの中で、研究のどこに焦点を当てればわかりやすくなるか、異なる専門分野の研究者はどの部分がわからないのかといった点を学ぶことができたことは貴重な経験となりました。
  • 全てのオーガナイザーが非常に親切で、発表者の気持ちをリラックスさせるよう様々な配慮をなさってくださったことに感謝いたします。楽しめたことは、多くの先生方から多様な観点からアドバイスを頂けたことです。発表者の方々のモチベーションも非常に高く、大いに刺激を受けました。苦労したのはやはり8分以内に、しかも簡潔にまとめなくてはならなかったことです。

Showcaseへの参加は、あなたの今後のキャリアと研究に、今後どのように役にたちそうですか。

  • ほぼ初めての英語発表で、質問の内容はわかっている際も咄嗟の返答の中で英語をすぐに組み立てることができず、日常的に英語を読むだけでなく話す訓練が必要であることを実感しました。今回の機会を得たことで、今後の英語発表に向けた準備等にも意欲的に取り組むことができるように思います。また、原稿のフィードバックについて、二人の先生から、それぞれ異なる視点からご意見を頂けたことがとても役立ちました。また、内容に関する指摘と、プレゼンの形式や方法に関する指摘の双方があったことで、何を意識して発表を行うべきか把握しやすくなりました。
  • 専門的な研究をしていると、専門外の人々は何に興味を持つのか、またプレゼンの前提となる知識をどの程度聞き手が持っているのかわからなくなりがちです。レビュワーとのやり取りの中で、これらの点を学ぶことができました。専門知識のない人々に自分の研究について伝える上で今回の経験は役に立つと思います。

コロナ渦が続く中、前回に引き続き2回目のオンライン開催となったRSですが、当日は皆様のご協力のおかげでスムーズに進み、無事に終えることができました。41名ほどの参加者を得ることができ、Q&Aでは多くの質問やアドバイスが発表者へと寄せられました。司会のクラウタウ先生や質問者が、発表者をエンカレッジしながら具体的な改善案や先行研究の紹介をする場面も見られ、緊張感がありながらも温かい雰囲気の中で刺激的なやり取りが交わされていました。今回のRSが発表者を含め、参加した皆様の今後の研究や教育にとって有益であったならば幸いです。

東北大学のクラウタウ先生、ゴダール先生、茂木謙之介先生、告知に協力してくださった方々に感謝いたします。今後とも、英語での発表スキルの向上や、学際的・国際的交流を目指す全ての歴史研究者の参加をお待ちしています。

史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」開催報告書

2020年10月2日(金)に、史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」が開催されました。企画者である峯沙智也さん(東京大学大学院博士課程)を中心としたメンバーによる開催記を以下掲載します。

史料読解ワークショップ開催記

ワークショップの概要(峯)

2020年10月2日(金)に、史料読解ワークショップ「議事録の内と外を読む」が開催された。講師として、飯田洋介先生(岡山大学)と山本浩司先生(東京大学)をお招きし、新型コロナウイルス感染症拡大のもと(Zoom使用による)オンライン会議という形で開催が実現した。歴史学を専門とする私にとって、史料との付き合い方について第一線で活躍中の研究者から学ぶことのできる今回のワークショップを開催できたことは幸いであった。

今回のワークショップでは、歴史学に取り組む多くの人が避けては通れない議事録史料を題材に、学部生から、博士課程、そして社会人に開かれたワークショップにすることを心がけた。参加者をSNS等やホームページで募ると、数時間後には、全国(ヨーロッパからも!)の学生や国際機関に勤務する社会人を含む多様な参加者からの申し込みで枠がほぼ埋まった。

参加者には事前に課題が配布し、各自が当日までに準備を行うこととした。当時のワークショップの構成は、前半が飯田先生による「19世紀プロイセン・ドイツの省庁議事録の場合」、後半が山本先生によるイギリス王政復古期(1660-85)の議会史料を読む」の二部に分かれていた。それぞれ先生の講義の後、グループにわかれて事前課題について議論し、その後に全体での質疑応答があった。

以下の各セッションの内容及び開催方法に関する記述は、企画者である峯と協力メンバー(大下・佐藤・安藤)がワークショップ後に話し合った内容を、峯が加筆修正・再構成したものである。続いて、参加者の声を抜粋して紹介している。開催記の文面を確認いただいた講師の先生に御礼申し上げたい。

飯田先生のセッションについて(大下理世)

飯田先生の事前課題の題材は、独仏戦争(普仏戦争)勃発二日前の1870年7月17日にプロイセン海軍省にて開催された会議の議事録である。ヤッハマン海軍中将、ゴルツ海軍少佐、シュテンツェル海軍大尉に加え、外務省からはクラウゼ公使館参事官がこの会議に出席し、その議題は、アメリカでの軍艦購入による〔海軍力〕増強についてであった。事前課題として出されたのは、①この会議の議題は何か、②この議題に対する発言者の主張をまとめること、③議題に対する発言者の所属する省庁の立場の違いを確認すること、④この議事録をより深く理解するには、他にどのようなことをおさえておけばよいと思うか、というものであり、19世紀のドイツ史の前提知識がない参加者であっても取り組みやすかった。

ワークショップの講義で飯田先生は、P. ガイス/G. ル・カントレック監修(福井憲彦/近藤孝弘監訳)『ドイツ・フランス共通歴史教科書【近現代史】』(明石書店 2016)を引合いに出して史料のカテゴリー(政治的文書、行政文書、法律文書、個人的な文書、文学作品など)について説明した上で、議事録(Protokoll)という史料がどのような性格を持ったものであるかを位置付けた。その際、飯田先生は、議事録の語義を確認した後、そこには議事内容と出席者の発言が記録されるものの、それがどのレベルの会議の議事録か(国会レベルか、官公庁のどのレベルか?公開の有無は?)を確認することが、発言内容やそこでの議論の結果を位置づける上で不可欠であると説いた。続いて、事前課題の題材となった議事録が解説された。この議事録には、戦時に米国で軍艦購入することをめぐって、外務省のクラウゼが米国での中立法の故にそれが困難かもしれないことから、極秘に「シェリハ」という人物に現地調査を依頼することを提案すると、海軍側はこれに同意するとともにイギリスでも調査することを推奨したことが記されている。しかしながら、飯田先生はこの問題をめぐって、この会議以前になされた経緯を紹介し、米国での軍艦調達をめぐって外務省と海軍省の間で意見の相違があったことに触れ、その文脈をおさえてはじめて議事録に垣間見られる両者のスタンスの違いに気づくことができるのであって、議事録からだけでは読み取れないことがあること、すなわち議事録そのものに過度に期待せず、他の史資料と組み合わせて読む必要があるとして、本ワークショップの主題でもある「議事録の内と外」を示した。

続いて行われたグループワークでは、それぞれが事前に用意してきた課題の答えにもとづいて議論を行った。オンライン上での議論ということでGoogleドキュメント上に参加者が用意してきた解答を書き込み、それぞれ口頭でその説明を行った。報告者のグループでは、事前課題に熱心に取り組み史料の歴史的背景についても勉強してきた参加者が多かった。飯田先生の講義とグループワークを通じて、報告者は主に二つの重要な点を再認識した。第一に、「議事録から読み取れること」と「議事録だけでは分からないこと」、すなわち、議事録の内と外を意識する必要があることである。ここでいう「議事録の外」とは、軍艦について、あるいは社会情勢に影響を与えた条約について知識や理解を得るための議事録以外の資料である。第二に、議事録を読む際、発言者の主張がその肩書きと立場によって影響を受けていることを意識する必要がある点である。

山本先生のセッションについて(佐藤ひとみ)

史料読解ワークショップの後半では、山本浩司先生が、イギリス王政復古期(1660-85)に行われたストア川の「河川航行事業」に関する議事録と法案を用いたワークショップを行った。 (事前配布資料、当日のスライドと音声はこちら)

今回のワークショップで提示された史料は以下の2つである。1つ目は、1662年3月に庶民院を通過し、同年に法律として成立したストア川関連法の抜粋である。2つ目は、ストア航行法の成立過程を明らかにするために、ストア川法が庶民院で本格的審議を受けた、一連の審議の議事録史料である。

山本先生から事前に提示された課題は、「ストア川法案と地元住民の権利保護の関連性」や、「ストア川法案の内容は、これまでの1688年の名誉革命に対する一般的理解をどのようなに修正し、改める可能性があるか」というものだった。法案が可決する流れを確認する中で、住民による嘆願書が法案の成立を十分に理解するためには重要であることが伺えた。しかし、今回のワークショップでは限られた史料しか与えられておらず、自分たちが検討している史料を歴史の全体像の中で位置付けることの困難さを感じた。議事録の内容を理解するためには、その外側、つまり議事録で言及されている他の史料や社会的背景の理解なしでは、自分が扱う史料としての議事録を全体像のピースとして認識できないのだと痛感した。

また、今回山本先生が使用された史料は、先生が博士論文を執筆する際に実際に用いた史料である。ワークショップが終わったあと、先生からご自身の研究についての解説があった。そこでは、特に、実際の議会の議事録をどのように理解するかという問題と、その史料が研究史的に持つ意義が何なのか二つの層を意識しながら議事録を読むということについて先生自身の経験を交えたレクチャーがあった。

例えばこれまでの研究では、議会主導で市民の権利保護が達成されたのは1688年の名誉革命で、それが経済発展の基礎となったと考えられてきた。しかし、発見した史料を読む中で、イギリス議会は政治的不確実性に直面していた王政復古期(1660-)から、すでに市民の権利や所有権について意識しており、そのことがイギリスの経済発展を可能にしていたのではないか、という仮説が立てられた。さらに史料を検討していく中で、市民の権利や所有権が保護されていたとしても、それは必ずしも「議会主導」とは限らないのではないか?重要なのは権利保護のタイミングではなく、立法プロセスにおける利害関係者の役割ではないか?という、さらに踏み込んだが問いが立てられた。

新たな問いをもとに史料を検討していく中で、ストア法案に直接関係する院外史料や、議会が同時に審議していた事案、王政復古体制の正当性を提示する源泉——これは木版画に描かれた絵と文書から示された——といった史料が新たに発見された。そして、王政復古期には、絶対王政期のトラウマや、市民からの請願書を駆使した、院外政治による「記憶」の利用があったことが明らかになった。こうして、18世紀以降の運河網と経済発展の基礎となる航行河川の延長は、名誉革命以前の1660年代から、院外からの介入をきっかけとして地元住民権利保護と両立する形で行われつつあったことが示された。

歴史を書くために史料として議事録を読む時、私たちは自分の中にリサーチクエスチョンを立て、その問いを下敷きとしながら議事録を読み、パズルのピースとして全体像の中に位置付けようとする。しかし、山本先生のレクチャーから、問題設定は史料読解を進める中で進化することを学ぶことができた。また、自分が扱っている目の前の問いは、大きな物語を再構成することに繋がる可能性があることを、今回のワークショップを通して知った。しかしそのためには、問題設定や史料を制限してはならない。また議事録を読む際には、多様な史料で補って読むことが重要なのである。山本先生のレクチャーを通して、歴史を書く上で問いを修正する重要さ、議事録を読む際に多様な史料で情報を補う必要性、そして目の前の問いをより大きな研究史の文脈に位置付けることの大事さを学ぶことができた。

参加者のグループ分けなどの開催方法について(安藤良之介)

開催方法を検討した者として全体として振り返ってみると、身分、性別、居住地域、興味関心など、様々な属性の方に参加していただけたと思う。この点に関しては、オンライン開催だったことに加え、山本先生、飯田先生という専門地域・時代の異なる先生に講師をお願いできたのも大きかったのではないだろうか。当日のレクチャーでも各先生で異なる種類の議事録を扱い、異なった切り口から解説を加えてくださり、一参加者として学ぶところが大きかった。また参加者の多様性に応じて、学年・性別の割合がなるべく均等になるようにグループ配分したことも工夫のひとつであった。

参加者の声(アンケートより抜粋)

  • (聞けてよかったこととして)史料を読むときは,まず形容詞を外してSVOだけ読む(という読み方)
    (学部生・フランス史)
  • 議事録と他の資料をどのように組み合わせるか、実際の研究例を通して分析方法を説明してくださったので非常に勉強になりました。
    (学部生)
  • 第一線で活躍する研究者の調査手法(「手の内」)を知ることができて有意義で、かつ刺激を受けました。
    (博士課程・フランス史)
  • 史料を探している時、迷走しているようにも感じるが、新しい史料を見つけながら、質問もブラッシュアップしていく」、という話を伺えて良かった。
    (博士課程・チェコ史)
  • 歴史学のすごさが分かりました。一般人が参加できる歴史学講座で嬉しかったです。
    (社会人・国際機関勤務)
  • 一片の史料から歴史が再構築されていく様子が活き活きと語られた点が非常に良かったと思います。
    (社会人・大学教員)

登壇された講師

  • 飯田洋介先生(岡山大学)
    ドイツ近現代史:ビスマルク外交の再検討。
    著書に、『ビスマルク』中公新書、2015年。『ビスマルクと大英帝国』勁草書房、2010年。
    近著『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争: ビスマルク外交を海から捉えなおす』NHK出版、2021年。
  • 山本浩司先生(東京大学)
    イギリス近世史:エリザベス朝期の時代劇や南海泡沫事件の再検討
    著書に、Taming Capitalism before its Triumph, Oxford University Press, 2018。

飯田先生の著書が1月26日に発売されました。最新の研究で使用された史料をワークショップの題材として提供いただきました。実際にワークショップで使用した史料が、飯田先生のご研究の中でどのように議論されているのか、ぜひお確かめください!

飯田洋介『グローバル・ヒストリーとしての独仏戦争: ビスマルク外交を海から捉えなおす』NHK出版、2021年

企画・運営・司会

峯 沙智也(東京大学総合文化研究科・博士課程・ドイツ近現代史)

協力メンバー

大下理世(東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター・ドイツ近現代史)
佐藤ひとみ(東京外国語大学・博士課程・チェコ現代史)
安藤良之介(東京大学教養学部研究生)

【開催報告】特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」@第70回日本西洋史学会大会

趣旨説明・概要

去る2020年12月12日(土)、第70回日本西洋史学会大会において、特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」が開催されました。歴史家ワークショップはこれまで、日本西洋史学会でさまざまなワークショップを実施してきましたが、その中で明らかになってきたのは、多くの研究者が「新しいことを始める余裕がない」という思いを抱えている点です。生活費を確保するためのアルバイトや授業、大学業務、学会の運営、あるいは子育てや親の介護に追われ、充分な研究時間を確保できなかったり、ついには研究者としてのキャリアそのものを断念せざるを得ない事態が生じたりしているのです。

こうした研究者のワークライフバランスをめぐる問題は、これまで個人の努力で解決されるべきものと考えられてきましたが、より多くの人々で議論・課題の共有を行なう意義もあるはずです。その議論を喚起すべく、今回のワークショップでは、企画立案者でファシリテーターを務める春日あゆか氏、コメンテーターとして柳原伸洋氏、金澤周作氏にご発言いただき、その後フロアからも積極的にコメントを出していただくことで、研究者のワークライフバランスについて議論し、問題意識を共有することを目指しました。

春日・柳原・金澤氏による報告

まずは春日氏が、自身の工夫について報告しました。こうした工夫を行なうようになったきっかけは、常勤教員として働き始めるにあたり、将来さらに忙しくなることを見据えて仕事を効率化したいと考えたことでした。そして、Excelを用いた労働時間の記録・可視化や院生・学生の積極的な雇用、授業準備の工夫などの試行錯誤を続け、研究時間の確保に関しては一定の成果を挙げているとのことでした。

つぎに柳原氏の報告では、そもそも「ワークライフバランスとは何か」という問題に立ち戻り、個々人だけでなく家族のワークとライフも関わってくるため、これを達成するのはかなり難しいのではないかという指摘がなされました。また柳原氏は、ご自身の仕事の「効率化」に向けた工夫を紹介する一方で、行き過ぎた「効率化」には警鐘を鳴らしました。「効率化」とはあくまで研究時間を確保するための手段に過ぎず、人間関係や学問を行なううえで効率を追求することが誠実といえるかどうか、という問題が提起されました。

最後の金澤氏の報告では、個人のワークライフバランスと学界全体との関係性が論じられました。ワークライフバランスを達成するためには、それぞれの願望を阻害する現状の課題について、個々人で対応するしかない。しかし、類似した課題を抱える人々でそれらを共有・特定したり、他者の課題に共感することはできる。一方で金澤氏は、個人にとっての心地よさやメリットを追求しすぎると、学界が機能しなくなることも指摘されました。学術雑誌の発行や学会の開催など、学界の維持に重要であるが評価されにくい仕事はいくらでもある。誰かがそれを担っているという理解と、自らがそれを担ってもよいという意欲を持たなければならず、ワークライフバランスを実現するためには、自他の課題を認識し、それぞれの事情に理解を示しながら協働できるような、学界の「メンテナンス」が必要である、という考えを述べられました。

フロアからのコメント

以上の三つの報告に対し、フロアからは様々なコメントが寄せられました。

例えば、仕事の効率化に関する内容です。これらのコメントからは、それぞれの職場や制度の中で皆さんが取り組まれている試行錯誤の現状が浮き彫りとなりました。また、そもそも仕事の効率化が必要ない環境を作るべきではないか、そのために大学・政府に制度改革を求めることが重要ではないかという指摘もなされました。これに対し柳原氏から、それぞれの組織・団体内で活動を続けること(他の団体がやっているからといって途中で止めないこと)が重要だというコメントがありました。

研究者の立場とワークライフバランスについて、とくに専業非常勤講師の現状に注目すべきという声もありました。非常勤講師は、任期や給与等の点でワークライフバランスの達成が極めて困難である。ゆえに、非常勤講師が置かれている状況を注視し、改善に向けた動きをとることが必要ではないかという提起がなされました。

さらに、研究者の人間関係に関するコメントも寄せられました。とくにこのコロナ禍で、今まであった人間関係が断絶したり、新たに人間関係を作ることが難しく、孤独な環境に置かれている。これについては自ら積極的に「場」を作ろうとする動きが大切だということで、春日氏から、オンラインを利用して集まり、一定の時間内で各自がそれぞれの作業を行なう「オンライン・グループ」の事例が紹介されました。

参加者の意見(アンケート結果より)

【得られたこと】

  • ワークライフバランスについて、皆なにがしかの悩みを抱えていることを共有できたこと自体が、今後を考えるうえで重要な一歩。
  • 世代によって、社会的あるいは経済的な立場によって直面している問題はそれぞれだが、このような問題を共有できたこと自体を嬉しく思う。
  • Excelを使った時間の見える化、時間を決めて図書館に通うといった実践例が参考になった。
  • ワークバランスをいろいろな組織が継続していくことの大切さ、非常勤雇用の不安定さや男女格差の問題など、いろいろな問題を学会の場でオープンにできた。

【もっと知りたかったこと、不足していると感じたこと】

  • 場作りを大切にするなら、パネリストに大学院生や研究員、非常勤講師もいると良かった。違う立場の人が同じ舞台で話せるイベントができたらそれ自体にとても意義があり、立場の弱い人の励みになると思う。
  • 各人がさまざまな事情を抱え、夕刻という開催時間を考えても、事前アンケートによりあらかじめ一定程度の意見集約を行なうほうがよかった。
  • 個々の愚痴と現状への対処法について、もっといろいろ吐き出して問題を共有したい。
  • 西洋史という領域に特有の現状認識と、それに由来する困難や解決の可能性について話すことも有益だろうと思う。

まとめ

今回のワークショップは、18-19時という時間帯にもかかわらず92名という多くの方にご参加いただき、それぞれの抱える課題について、議論・共有することができました。また、コロナ禍というこの厳しい状況において、第70回日本西洋史学会大会を運営され、特別ワークショップの開催を許可・支援していただいた大会準備委員会の皆さまに、心から御礼申し上げます。

今後も各種イベントの開催を続けていきたいと思いますので、アイデアがおありの方は、運営委員あるいは当HPのコンタクトフォームにてご連絡ください。

執筆:北川涼太(広島大学・博士課程後期)

2nd Early Career Conference 開催記録

【会の概要】

2020年8月31日(月)13時より、歴史家ワークショップは第二回 Early Career Conference(以下、本文中ではSECCと略記)を開催しました。

SECCでは、スピーカーとして国内外の研究機関と大学から6名の若手研究者に報告を依頼しました(当日のプログラムにつきましては、こちらをご参照ください)。また、報告とSECC全体に関するコメンテーターとして、同志社大学グローバル地域文化学部の水谷智先生をお招きしました。当日の司会進行は、東京大学大学院総合文化研究科の稲垣健太郎が担当しました。

【開催趣旨】

SECCは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、大規模な学会のみならず、小・中規模の研究会等が全世界的に中止・延期を余儀なくされる状況下、企画・運営されました。本イベントの企画時点でも、オンラインに移行して学会や研究会が開催されています。こうした移行を一時的なものとしてのみ考えるのではなく、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアカデミアが直面している様々な変化の一環として捉えつつ、SECCの企画・運営が進められました。本カンファレンスの開催趣旨として、以下の2点を挙げることができます。

1. 上述のような困難な状況においても、国内外の大学・研究機関に所属する大学院生・若手研究者に研究報告の機会を提供すること。また、オンラインでの報告機会が今後増える可能性を考慮し、オンラインでの報告について学ぶ機会を用意すること。

2. 専門分野の知見を必ずしも共有しない、幅広いオーディエンスに向けて研究成果を伝えるにあたり、どのように報告内容を整理し、発表するか。また、報告に対していかに効果的に質問をするか。

英文校閲ワークショップや Research Showcase、2018年に開催された第一回 Early Career Conferenceなど、歴史家ワークショップがこれまで実施してきた試みと同様に、SECCも「幅広い読み手・聞き手に対してどのように研究の核心や新規性、独自性をわかりやすく伝えるか」という点を特に重視しました。

【発表とコメント】

SECCでの報告のテーマは、多様な地域と問題関心にわたりました。以下にそれぞれの報告の概略を示します。

  • 20世紀の上海におけるアメリカ人宣教師の子どもたちが、異国の地でどのようにアイデンティティを形成したのかを、回顧録における食という側面から考察する。
  • 第二次世界大戦後のアメリカにおける国際関係論の学問としての制度化とその背後に垣間見える意図を、ロックフェラー財団とアカデミアの関係に注目しながら明らかにする。
  • 19世紀前半における阮朝の交易を、東南アジア海域史の文脈や西欧諸国との関係性から分析する。
  • 11世紀のグラナダ王国ズィーリー朝君主アブドゥッラー・ブン・ブルッギーンの自伝を中心に、アラビア語文献史における自伝というジャンルやそれらに仮託された書き手の意図を考察する。
  • 20世紀前半のチェコスロバキアにおける共産主義の拡大を、ソビエト連邦という外在的な要因によってではなく、チェコスロバキア内部の要因から分析・説明する。
  • 20世紀のフランスにおける結婚広告の調査を通じて、パートナーに求める要素が即物的なものから非即物的なものへと変化していった、という仮説を検証する。

いずれの報告も、分析の視角や手法・資史料、そこから導かれる帰結の点で興味深いものでした。それぞれの報告者が、先行研究との関係から研究の独自性を打ち出し、研究がより広い文脈において有する含意 (implication) を示すことに成功していました。

報告後の質疑応答では、事実確認に止まらず、どのように研究をさらにより大きな知的文脈に位置付けるか、という点にも議論が及びました。

以上の報告を受けて、水谷先生からは、研究者のキャリアパスの様々な段階において、読み手や聞き手の反応を予想しながら研究成果を発信していくことの重要性、またキャリアのはやい段階で幅広いオーディエンスに向けた報告を意識する必要がある、というコメントをいただきました。

【おわりに】

SECCは、今年度実施されている歴史家ワークショップの他のイベントと同様に、オンラインで開催されました。オンラインでの国際的な学会の企画・運営という経験は、運営に当たった私たちにとっても初の試みとなりました。オンライン開催に伴い、日本のみならず、ヨーロッパやアジアから、合計20人ほどの皆さまにご参加いただきました。

報告を伺い、質疑応答に参加するなかで、私自身が幅広いオーディエンスに向けて報告をする際にどのように情報を整理するか、オンラインで自身の主張を伝える際に、内容的な面のみならず、伝達の方法をどのように工夫するか、という点を考えるきっかけになりました。また、短い時間のなかで、建設的な質問をすることを意識しながら、今後のカンファレンスや学会に臨みたいと感じました。

報告者からは、議論を整理するだけでなく、スライドをどのように効果的に作成するかについても考える機会になったという感想をいただきました。

【謝辞】

末筆ながら、今回のSECCの開催に当たってご協力いただいた共同企画者と歴史家ワークショップの皆さま、CfPとカンファレンスの告知に際してご協力いただいた皆さま、ご多忙のなかコメンテーターを引き受けてくださった水谷先生、そしてご参加下さった皆さまに感謝いたします。ありがとうございました。

稲垣健太郎

第11回Research Showcase(日本文学・日本史)開催記録

第11回リサーチショウケースは7月11日にZoomを使って開催されました。初めての日本文学・日本史特集で、そしてコロナの影響で初めてのオンライン開催となりました。

今回は、日本文学分野から7名、日本史分野からは3名(含美術・思想史)の発表者が集まりました(当日のプログラムはこちら)。司会は国文学研究資料館の山本嘉孝先生が担当し、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のタイモン・スクリーチ先生がゲスト・コメンテーターをつとめました。

スクリーチ先生は10名の発表に共通するテーマを「authority of Tokugawa」、「the way people looked back at history」、「notion of China」「emergence of modernity」としてまとめ、今後の研究展望として、江戸時代の全体像や「浮世」の捉え方を提起しました。

山本先生は日本研究の発表フォーマットに焦点を合わせ、日本語での発表はレジュメやスライドで史資料を解釈するスタイルが多いのに対し、英語での発表は「big picture/concepts」を重視しているとコメントしました。

今回も発表者の方々に、アンケートに協力していただきました。以下、一部を紹介します。

■今回の Research Showcase で学んだことで、同僚や今後の参加者と共有できそうなこと。

  • 普段の研究で反射的に使っている専門用語の英語訳ないし英語での説明方法を考える良い機会になった。
  • 自身の研究における大きな展望と、今現在行っている細かな研究との繋がりを、他分野の研究者に対して明快に説明することが求められる場であり、そのための訓練と自覚化の機会になった。

■Showcaseへの参加は、あなたの今後のキャリアと研究に、今後どのように役にたちそうですか。

  • 英語に限らず、語学を本格的にやらないといけないなという危機感を強く持ちました。日本文学の命脈を保たせるためにも、海外に進出することや、海外から輸入するということを、今後の研究者は真剣に考えるべき時期に来ていると実感しました。
  • 原稿へのフィードバックは、自分の目では気づかないような綻びやミスを指摘していただけて、大変勉強になりました。それだけでなく、一回自分の原稿を落ち着いて読んでみると、自分でも「こういう言い方のほうがいいんじゃないか」とか、「こっちのほうが分かりやすいんじゃないか」とか、そういう視点を持てるようになると思います。
  • 国際学会での発表は、多様な背景を持つ研究者が4人程度でパネルを組んで応募することが一般的だと思うので、RSで出会った研究者ネットワークは大変貴重なものになると思います。
  • 発表原稿のフィードバックについては、発表内容におけるどの部分が必ずしも共有の知識ではないのかを、他分野の研究者の方から具体的に指摘して頂ける機会が貴重であると感じます。慣習的に使用している用語を、改めて言語化する訓練の機会にもなりました。
  • 今回の発表を通して得た経験で一番大きかったのは、英語発表に対する免疫がついたことです。正直自分が英語で発表することはないだろうと思っていたのですが、RSでの発表を経てむしろ積極的に国際発信していきたいという気持ちになりました。

まとめ

初めてのオンライン開催となったRSですが、無事に終えることができました。オンライン開催により地理的制約がなくなったことで、アメリカ、ヨーロッパ、中国からの参加者も含めて30名ほどの参加者を得られました。日本史や日本文学研究においても国際発信の機会がいっそう増えつつあるなか、多様なステージに身を置く研究者があつまり、研究内在的な論点からその伝え方に至るまで、刺激的なやり取りを交わす機会となりました。

SOASのスクリーチ先生、大阪大学の飯倉先生、国文学研究資料館の山本先生、そして告知にご協力いただいた皆様に感謝いたします。

歴史家ワークショップでは、今後も日本史、日本文学研究者の国際発信をサポートする取り組みを進めていきます。一層多くの方々に参加していただけますよう、運営側としても願っております。