西洋史学会ワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える:教室での実践から」 開催報告

2021年5月15日、第71回日本西洋史学会大会にてワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える:教室での実践から」を開催しました。その目的は、大学で西洋史を教えるにあたり、学生に何を伝え、何を学んで欲しいと考えているのか、いかなる工夫をし、いかなる悩みを抱えているのかを率直に話し合い、意見交換することです。日々の授業でどのような試行錯誤がなされているのか、教育と研究はどのような関係にあるのかについて、登壇者2人にご自身が担当する講義科目を例に取った話題提供を、コメンテーター1名にコメントをいただいた後、質疑応答が行われました。

森谷公俊氏の話題提供「中堅私立大学における西洋史の授業実践」は、西洋史を教える場合でも、学生にまず身につけてもらいたいのは日本語を読み書く力であるとし、問いを工夫した課題を出し、学生が文章を書く機会を多く設け、さらに教員が手を入れることの重要性を説きました。また通史であっても教員の関心を授業内容に積極的に反映させる、特殊講義では日本語訳された史料の提示と批判を行い、歴史学研究の実際を例示する、授業内容を変更した際あるいは前年と内容を変えなくても直前の復習が不十分であった場合に失敗するといった経験を語りました。さらに教育と研究の関係について、研究成果が教育に生かされるのは当然としても、目の前にいる学生に理解してもらうような語りの工夫が、論文や書籍の執筆に、つまり研究にも生かされると指摘しました。

八谷舞氏の話題提供「教養教育としての西洋史」は、現在の担当している授業、とりわけ西洋史の通史での実践を振り返りました。八谷氏も学生が将来社会に出た際に必要になる、情報を分析、解釈し、論述する力を身につけることが重要だとし、大学入試問題を使った論述の練習や日本語史料の読解によって高校での世界史から大学での歴史学への架橋を試みていることに加え、「大学レベル」の担保のために『論点・西洋史学』から最新の学説や重要な論争を紹介していることについても触れました。日本語訳の史料集は学生と一緒に考える気持ちで読んでおり、極めて有用であるが政治史への偏りが見られること、やり方によっては歴史学の授業はオンラインの授業形態と相性がよいという指摘もありました。また英語で実施する授業についても触れ、西洋史研究者にこれから求められる教育上の役割も紹介しました。

コメンテーターの津田拓郎氏は2人の実践を高く評価しつつも、実際の担当授業数によっては実践が難しいという疑念を、ご自身が常勤職に就く前の状況を振り返りながら指摘しました。そして働きすぎないためにも一定の線引が必要で、例えば各回の授業で学生に伝えたい主張を思い切って絞り、それを伝えるように注力するのも必要なのではないかと述べました。また、授業実践の紹介は有益であるが、系統だってまとめて発表されることでさらに効果が上がるのではないかと指摘しました。

その後フロアから、学生のレポートへのフィードバックの方法、漫画や映画などフィクション作品の活用の仕方、うまくいかなった授業をどの時点でどのように修正するのか、西洋史の知識をどれほど身につけてもらうべきなのか、西洋史を学ぶことで特に得られる社会の諸問題への意識や物の見方というものを意識しているのか、外国語をどの程度・どのように使うのかといった疑問が出され、登壇者からの応答がありました。

アンケートでは、本ワークショップからポジティブに捉えられたこととして以下のような回答が得られました(一部表現を変えたところがあります)。

  • 教育活動を実践する中での現実的な目標、可能な範囲、課題、限界をどう捉えられているか知ることができて、参考になった(常勤教員)。
  • 学生の前提知識やレベルによらず、工夫次第で関心ややる気を引き出して授業を展開できるのだとわかった(常勤教員)。
  • 大学における授業実践については、自分が参加していた授業あるいは懇親会等の場で聞いたことから知見を得ていたが、お話を聞く機会のない方々から、ある程度の長さの時間をかけて実践内容や考えを聞けた(学生)。

また、より深められるべきだったこと、不満に感じたこととしては以下のものがありました。

  • 歴史学だからこそ、西洋史だからという学問特有の意義をどう伝えるかをもう少し考えてみたかった(常勤教員)。
  • 教育上の課題や限界がもっと話し合われて、明確な問題提起がなされてもよかった(学生)。
  • 偏差値的な学力指標だけで学生のポテンシャルをくくることの危険性も感じてしまった(学生)。

全体として、教育の現場について率直に語られていたことが励みになった、現実的・具体的な実践例が聞けて良かったという感想が多く寄せられました。一方で、今回の西洋史学会大会には学部学生の参加も多かったにもかかわらず、学生の参加を前提とした配慮がなされていない発言があったという批判をいただきました。この点は真摯に受け止めて、今後の企画に反映させていきます。

本ワークショップは大会特別企画シンポジウム「歴史総合の史学史」の直後に行われたこともあり、最大で240人ほどの参加者を得ました。本ワークショップが参加者それぞれにとって大学で西洋史学を教えること、そして学ぶことはなにかについて、改めて考えるきっかけとなったのであれば幸いです。遅い時間に参加してくださった皆さま、そしてワークショップの開催を認めてくださり、全面的なサポートをしてくださった第71回日本西洋史学会大会準備委員会の皆さまにお礼申し上げます。

高橋亮介

日本西洋史学会ワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える——教室での実践から——」のお知らせ

来る2021年5月15日・16日に開催される第71回日本西洋史学会(武蔵大学・オンライン開催)にて、本会執行部員の高橋亮介さんが企画したワークショップ「日本の大学で西洋史学を教える——教室での実践から——」がおこなわれます。

ワークショップ概要

趣旨説明:高橋亮介(東京都立大学)
実践例の報告:森谷公俊(帝京大学)、八谷舞(亜細亜大学)
コメント:津田拓郎(北海道教育大学旭川校)

本ワークショップでは、大学で西洋史を教えるにあたって、学生に何を伝え、何を学んで欲しいと考えているのか、いかなる工夫をし、いかなる悩みを抱えているのかを率直に話し合い、意見交換することを目的としています。

これまで西洋史学会のシンポジウムでは歴史教育がたびたび取り上げられてきましたが、大学の教壇に立つのを日常とし、あるいは教育に携わる職に就くことを希望する西洋史研究者が実際にどのような授業を行い目指すのかについて、公の場で語る機会は多くありませんでした。また大学ごとに設けられるFD研修では特定の分野に固有の問題を掘り下げることが難しいという問題もあります。したがって専門を同じくする研究者が集まる学会で授業実践について話し合うことに意味はあるでしょう。

西洋史学を学ぶ意義は、学問への熱意を持つ学生たちだけなく、異文化への漠然とした憧れを抱いて教室にやってくる学生、卒業要件という外的な要請から履修する学生たちに対して、どのように説明されるのでしょうか。授業の内容や目的、受講生の学年によって、異なる説明や評価がなされることもあるでしょう。大学教育のなかで様々に位置づけられる西洋史を教えるにあたって、私たちは何を伝えようとし、どのように授業を組み立て、どのような観点から評価しているのでしょうか。

本ワークショップでは、卒業論文執筆を含めた史学科での専門教育、初等中等教育に携わろうとする学生を対象とする教員養成課程、大学で唯一西洋史を学ぶ機会となるかもしれない教養科目の担当者という異なる立場にある教員から日々の実践についてお話しいただき議論の糸口とします。まず『学生をやる気にさせる歴史の授業』(青木書店、2008年)などにより授業実践の紹介と授業改善への提言をしている森谷公俊氏(帝京大学文学部)と、海外留学、高等学校・大学での非常勤講師、助教職を経て、現在講師として西洋史を担当している八谷舞氏(亜細亜大学法学部)から話題提供を、続いて津田拓郎氏(北海道教育大学旭川校)から教員養成課程の事情も踏まえたコメントをいただき、フロアからの意見を募ります。

参加申込

詳細および参加申込は、日本西洋史学会オフィシャルサイトをご参照ください。

【開催報告】特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」@第70回日本西洋史学会大会

趣旨説明・概要

去る2020年12月12日(土)、第70回日本西洋史学会大会において、特別ワークショップ「仕事の効率化とワークライフバランス」が開催されました。歴史家ワークショップはこれまで、日本西洋史学会でさまざまなワークショップを実施してきましたが、その中で明らかになってきたのは、多くの研究者が「新しいことを始める余裕がない」という思いを抱えている点です。生活費を確保するためのアルバイトや授業、大学業務、学会の運営、あるいは子育てや親の介護に追われ、充分な研究時間を確保できなかったり、ついには研究者としてのキャリアそのものを断念せざるを得ない事態が生じたりしているのです。

こうした研究者のワークライフバランスをめぐる問題は、これまで個人の努力で解決されるべきものと考えられてきましたが、より多くの人々で議論・課題の共有を行なう意義もあるはずです。その議論を喚起すべく、今回のワークショップでは、企画立案者でファシリテーターを務める春日あゆか氏、コメンテーターとして柳原伸洋氏、金澤周作氏にご発言いただき、その後フロアからも積極的にコメントを出していただくことで、研究者のワークライフバランスについて議論し、問題意識を共有することを目指しました。

春日・柳原・金澤氏による報告

まずは春日氏が、自身の工夫について報告しました。こうした工夫を行なうようになったきっかけは、常勤教員として働き始めるにあたり、将来さらに忙しくなることを見据えて仕事を効率化したいと考えたことでした。そして、Excelを用いた労働時間の記録・可視化や院生・学生の積極的な雇用、授業準備の工夫などの試行錯誤を続け、研究時間の確保に関しては一定の成果を挙げているとのことでした。

つぎに柳原氏の報告では、そもそも「ワークライフバランスとは何か」という問題に立ち戻り、個々人だけでなく家族のワークとライフも関わってくるため、これを達成するのはかなり難しいのではないかという指摘がなされました。また柳原氏は、ご自身の仕事の「効率化」に向けた工夫を紹介する一方で、行き過ぎた「効率化」には警鐘を鳴らしました。「効率化」とはあくまで研究時間を確保するための手段に過ぎず、人間関係や学問を行なううえで効率を追求することが誠実といえるかどうか、という問題が提起されました。

最後の金澤氏の報告では、個人のワークライフバランスと学界全体との関係性が論じられました。ワークライフバランスを達成するためには、それぞれの願望を阻害する現状の課題について、個々人で対応するしかない。しかし、類似した課題を抱える人々でそれらを共有・特定したり、他者の課題に共感することはできる。一方で金澤氏は、個人にとっての心地よさやメリットを追求しすぎると、学界が機能しなくなることも指摘されました。学術雑誌の発行や学会の開催など、学界の維持に重要であるが評価されにくい仕事はいくらでもある。誰かがそれを担っているという理解と、自らがそれを担ってもよいという意欲を持たなければならず、ワークライフバランスを実現するためには、自他の課題を認識し、それぞれの事情に理解を示しながら協働できるような、学界の「メンテナンス」が必要である、という考えを述べられました。

フロアからのコメント

以上の三つの報告に対し、フロアからは様々なコメントが寄せられました。

例えば、仕事の効率化に関する内容です。これらのコメントからは、それぞれの職場や制度の中で皆さんが取り組まれている試行錯誤の現状が浮き彫りとなりました。また、そもそも仕事の効率化が必要ない環境を作るべきではないか、そのために大学・政府に制度改革を求めることが重要ではないかという指摘もなされました。これに対し柳原氏から、それぞれの組織・団体内で活動を続けること(他の団体がやっているからといって途中で止めないこと)が重要だというコメントがありました。

研究者の立場とワークライフバランスについて、とくに専業非常勤講師の現状に注目すべきという声もありました。非常勤講師は、任期や給与等の点でワークライフバランスの達成が極めて困難である。ゆえに、非常勤講師が置かれている状況を注視し、改善に向けた動きをとることが必要ではないかという提起がなされました。

さらに、研究者の人間関係に関するコメントも寄せられました。とくにこのコロナ禍で、今まであった人間関係が断絶したり、新たに人間関係を作ることが難しく、孤独な環境に置かれている。これについては自ら積極的に「場」を作ろうとする動きが大切だということで、春日氏から、オンラインを利用して集まり、一定の時間内で各自がそれぞれの作業を行なう「オンライン・グループ」の事例が紹介されました。

参加者の意見(アンケート結果より)

【得られたこと】

  • ワークライフバランスについて、皆なにがしかの悩みを抱えていることを共有できたこと自体が、今後を考えるうえで重要な一歩。
  • 世代によって、社会的あるいは経済的な立場によって直面している問題はそれぞれだが、このような問題を共有できたこと自体を嬉しく思う。
  • Excelを使った時間の見える化、時間を決めて図書館に通うといった実践例が参考になった。
  • ワークバランスをいろいろな組織が継続していくことの大切さ、非常勤雇用の不安定さや男女格差の問題など、いろいろな問題を学会の場でオープンにできた。

【もっと知りたかったこと、不足していると感じたこと】

  • 場作りを大切にするなら、パネリストに大学院生や研究員、非常勤講師もいると良かった。違う立場の人が同じ舞台で話せるイベントができたらそれ自体にとても意義があり、立場の弱い人の励みになると思う。
  • 各人がさまざまな事情を抱え、夕刻という開催時間を考えても、事前アンケートによりあらかじめ一定程度の意見集約を行なうほうがよかった。
  • 個々の愚痴と現状への対処法について、もっといろいろ吐き出して問題を共有したい。
  • 西洋史という領域に特有の現状認識と、それに由来する困難や解決の可能性について話すことも有益だろうと思う。

まとめ

今回のワークショップは、18-19時という時間帯にもかかわらず92名という多くの方にご参加いただき、それぞれの抱える課題について、議論・共有することができました。また、コロナ禍というこの厳しい状況において、第70回日本西洋史学会大会を運営され、特別ワークショップの開催を許可・支援していただいた大会準備委員会の皆さまに、心から御礼申し上げます。

今後も各種イベントの開催を続けていきたいと思いますので、アイデアがおありの方は、運営委員あるいは当HPのコンタクトフォームにてご連絡ください。

執筆:北川涼太(広島大学・博士課程後期)

第68回日本西洋史学会ランチタイム・ワークショップ「国際学会を有意義なものにするために」

|開催主旨

本ランチタイム・ワークショップは、西洋言語(英仏独伊語)を用いた国際学会を、さまざまな形で経験されてきた3人の研究者から体験談を伺い自由な討論を行うことで、スキルと経験を共有し、外国語でコミュニケーションをする意義を考えることを目的としています。

 近年、日本の西洋史研究者と海外の研究者との交流はますます盛んになり、海外での史料・文献調査や来日する外国人研究者による講演会はもちろん、国内外で研究成果を外国語で発表することも求められてきています。

 しかし、日本語の発表内容をそのまま翻訳したのではうまく通じない場合があるのも事実です。では、日本人研究者が、国際学会で発表し、国際学界との交流を深めたいと願ったとき、どのような点に注意を払って報告を準備し、口頭報告をし、他の参加者と交流を深めていくのが望ましいのでしょうか。日本語での報告との共通点・相違点は何でしょうか。国際学会において良い報告とはどのようなものでしょうか。

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