●山田のぞみ
本郷新記念札幌彫刻美術館職員。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。専門分野は17世紀スペインの美術と君主教育。主な論文に「La torre de la parada y la educación del príncipe: las metamorfósis como ejemplos viciosos(トーレ・デ・ラ・パラーダと君主教育——悪しき例としての変身物語)」(La formación artística、2018年)など。
Q. アウトリーチの意義、若手がすることの意義
A. 専門分野を残すために良き受容者を育てたい。教養よりのコンテンツを潰そうとする人がいるが、そういう人はそのコンテンツが流行っていることに気づいていない。可視化が重要。
A. そもそもアウトリーチを活発化する必要があるか解らない。自分の場合は専門分野を愛する気持ち、専門外の人々に自分が面白いと思うものを布教したい気持ちが強かったからアウトリーチを始めた。愛が持たれていない分野は自然淘汰されると思う。
A. アウトリーチが評価される空気を醸成していきたい。
Q. どのような研究者がアウトリーチ向きか
A. 一般向けの文章が書ける人。アカデミアと社会を分断しないバランス感覚が必要。
A. 研究者本人が面白い人かどうか。
A. 〆切が増えることを考えると1日にたくさん書くのが好きな人。
Q. どう炎上やクソリプに対応しているのか
A. (クソリプラーをブロックすることなく真面目に対応することについて)相手に伝わるかではなく、TLを見ている学生に「やな事言われたら言い返していいんだ」と伝えるため、あえてまともに反応している。「反論することは寧ろカッコいいじゃん」という空気を作りたい。
A. そもそも意見を表明するタイプのツイートをしないようにする。ブログ記事については間接的批判はありうるが、直接リプは少ないのでスルーできるしスルーする。
Q. アカデミズムは「バズ」とどう関係すべきか
A. 人々が関心を持っていることがバズるわけで、アカデミズムは「バズ」トピックについて学会をやるべき。テレビが生んだバズについても、学会がすぐにセミナーや雑誌の特集を組むのが望ましい。ただ学会に「目利き」がいないとこれらは実現しえない。
(例)TOKIOを知らないとTOKIOが発端のバズはアカデミックなことであれ学問に繋げ得ない
A. とはいえ若手が以上の活動を大きな学会に提案するのは難しい。オンライン上に流行に聡い研究者が集まれる場があればいいのだが。
A. ウェブ媒体で記事にすること自体がバズのフォローである。ウェブでは同じことが繰り返し議論される傾向があるので、ウェブ記事が何度も参照されるストックとして機能しうる。
Q. 意図した層とは違うファン(ノイジーマイノリティなど)が発生して、その結果、優良なファンがいなくなってしまうこともありえると思う。セルフブランディングって成功しているか?
A. ターゲッティング自体に違和感ある。ターゲティングをすると内輪になりやすい。それよりかは訳が分からない人がいた方がよい。今の社会の問題が内輪化にあるので、もっとマスに届いて欲しいと考えている。
A. >ファンが欲しくてやってるわけではない。強いて言えば高校生や学生に見てもらいたい。女性研究者にたいし、顔が出たとたんに猥褻な画像を送ってくる人がいるが、それはセキュリティ案件にするしかない。
Q. 自ら主体的に発信してこなかったSNS初心者へのアドバイスもお願いしたい。
A. 全員がSNSでアウトリーチを行う必要はない。書いた論文を再利用可能な形でウェブに出すだけで十分意義がある。利用可能な形でウェブ上に論文があれば、他人がそれを拾って記事を書くことも出来る。また、ciniiから論文本体が手に入れば編集者がそれをもとに記事依頼を送ることもできる。
A. 編集者にはウォッチャーが多い。専門書と現代社会の繋がりを示すような読書日記やツイートがきっかけでアウトリーチが生まれることもある。
A. 数人グループでのアウトリーチも可能。得意分野によるタスクの分担ができる、個人の見解を相対化したうえで発信することも可能。