Skills Workshop

2019年5月19日「ワークショップ:国際発信とキャリア形成」開催報告

趣旨説明・概要

2019年5月19日、第69回日本西洋史学会大会で「ワークショップ:国際発信とキャリア形成」を開催しました。本企画は、西洋史研究者の国際的な研究活動の実践と、それに付随するキャリア形成のあり方について、参加者による討論を通じて現状の把握と問題点の共有を目指すものでした。近年ますます盛んになる研究の国際化は、研究者自らが望むものであると同時に外部から要請されてもいます。また日本語での研究発表や論文・書籍の執筆、大学での教育や社会への発信といった活動の重要性が減じているわけでもありません。このような多種多様な活動をすることへのジレンマは、世代を問わず共有されているのではないでしょうか。

こうした問題の解決は容易ではありませんが、問題が個人的なものであると同時に構造的なものだと捉えるならば、各人がそれぞれの立場から何を具体的な問題として何に価値を見出しているのかを学会という公の場で話し合い、共有し、可視化することには意味があるでしょう。そこで、なんらかの規範的な結論を求めることなく、異なる立場・キャリアの段階にある人たちが自由に話し合うワークショップの機会を設けました。まず近代フランスの科学技術史を専門とし学問と大学のあり方の歴史にも詳しい隠岐さや香氏に、ご自身の経験に基づく問題提起・話題提供を議論のきっかけとしてしていただき、続いて「システム✕デザイン思考」による問題解決手法の開発と実践に携わる鳥谷真佐子氏をファシリテーターとしてグループワークを行いました。

 

隠岐氏による問題提起・話題提供

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隠岐氏の報告では、科学技術史の研究者としての立場から、日本語、フランス語、英語といった多言語での研究発表のペースと内容の違い、英語圏、フランス語圏、日本以外の東アジアの国々の研究者と日本人研究者の研究発表・内容のスタイルの違いなどが指摘されました。また国立の総合大学・研究大学に所属する立場から、人事や予算獲得において研究業績を定量的に評価する圧力が高まっていることや、理系をはじめとする非専門家に研究内容を届ける必要性と、その難しさも言及されました。

 

ワークショップ

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4つのグループに分かれて「国際発信とキャリア形成にはどのような問題があるか」というテーマでディスカッションを行いました。「因果ループ」という手法を用いて、研究者自身および研究者が関わる人々・組織による、さまざまな活動がどのように結びつき、どのような影響を持つのかを因果の関係性を表す図で示していきました。研究者自身を取り巻く環境と活動を規定する様々な要因を俯瞰するとともに、グループで話し合うことで、一人一人が見えてこなかった事柄に気づいたり、簡単に因果関係として捉えられない現象があることに気づきました。

最後に各グループが発表を行いましたが、共通して見られたトピックに、日本語と外国語での研究発表をするための時間・労力の振り分け、研究活動と社会との関わり、ライフワークバランスなどが解決していくべき問題として浮かび上がってきました。

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参加者の意見(アンケート結果より)

【得られたこと】

  • 現在日本の西洋史学が置かれている状況を客観視できた。ある課題は共有することで細分化され、解決の糸口が見つかると学んだ。
  • 海外で活動してきた人と国内で活動してきた人の間で対立があるかと思ったが、問題意識の共有がされていることに気づき勇気づけられた。
  • 異なる立場の方々が、それぞれの立場で学界全体、もしくは社会全体のことを視野に入れつつ考えているのを知ることができた。
  • 世代間のギャップを自覚できた。院生の問題を解決しようとすると有職者にしわ寄せがいき、その逆も然りで、そうした押し付け合いにならない解決策が必要だと感じた。
  • ジェンダーや世代、研究の経歴(海外で博士号を取ったか否かなど)がバラバラの人たちとざっくばらんに話せる機会はなかなかないので、楽しく意見を出しあえて有意義だった。
  • 問題把握のための思考実験が体験できた。

【もっと知りたかったこと、不足していると感じたこと】

  • 国際発信・キャリア形成というテーマでも拡散しがちで、あえてもう少し絞っても良かったのでは思った。
  • 研究者のバイアスが強くかかっていたと感じたので、一般社会・一般読者との関係についてももっと考えたかった。
  • 西洋史などの学部卒業生の進路分野の拡大とキャリア形成にかかわる議論ができなかった。

 

まとめ

今回のワークショップでは、意欲的な参加者に恵まれ、和やかな雰囲気のなかで楽しく議論をすることができました。本ワークショップの開催は、一般財団法人中辻創智社の会議開催費助成により可能になりました。ご支援を賜りましたことに対し、この場を借りて御礼申し上げます。今後も歴史研究に関する類似のイベントの開催を続けていきたいと考えています。アイデアのある方は、運営委員に、または当HPのコンタクトフォームでご連絡ください。

Research Showcase

2019年2月14日 第7回リサーチ・ショーケース開催報告

2019年2月14日に大阪大学で第7回Research Showcaseが開催されました。大阪での開催は初の試みとなりました。
(Research Showcaseの過去の開催についてはこちら

7thRS①

ドイツ中世史および近代史、プロイセン史、イギリス近世史、日本近代史、科学史、経済史をそれぞれ専門とする計7名のスピーカーに、8分間のプレゼンテーションをしていただいたのち、7分間の質疑応答を行いました。当日は、いずれも京都大学講師で経営史がご専門の久野愛さんとアイヴィンス・スティーヴンさんが司会進行役を務め、参加者は30名程度と盛況で、活発な議論がおこなわれました。Research Showcaseは、将来自信をもって国際的な舞台に立つことができるように、若手の段階から国際的なセミナーの雰囲気を体感できるような場を提供することを目的のひとつとして掲げてきました。当日のフロア全体でのディスカッションの様子からは、発表者と参加者双方にとって、英語による質疑応答の訓練の場としても効果的に機能していると思われました。

当日は、オーディエンスの投票により、発表内容や構成・議論の進め方等に基づきResearch Showcase Prizeの受賞者が選ばれました。栄えある受賞者は、イギリスの下院における奴隷貿易廃止反対派について発表された、大阪大学大学院文学研究科修士課程2年の森井一真さんです。今回のオーガナイザーの1人である大阪大学教授のピエール=イヴ・ドンゼさんから、賞状が授与されました。森井さんは、奴隷貿易反対派の政治的・経済的背景や利害関心を、スライドを効果的に用いつつわかりやすく提示しておられ、専門外のオーディエンスにも研究の内容とその意義を明快に伝えられたことが受賞につながったと思われます。

7thRS③

 

今回発表されたスピーカーの方々には、後日アンケートに回答していただきました。
以下では、その内容をご紹介します。

 

  1. 準備と発表を通して楽しめたこと、苦労したこと

【楽しめたこと】

・少ない時間でいかにクリアに論点を提示できるかを考える工程がもっとも楽しめた。
・全体的に発表者をサポートしようとする雰囲気のなかで報告できたこと。
・どういう風に自分の議論を構成し、見せる(魅せる)か考えること。

【苦労したこと】

・8分の枠に収まるように自分の研究を要約し、かつ説得性を持たせること。事例を入れれば時間を超えてしまい、概要だけでは説得的とならないというジレンマ。
・自分と専門分野を異にする人に伝わるように、基礎情報を入れつつ、なおかつ簡潔に議論の筋道を紹介出来るように原稿を書くことは苦労した。
・当日の質疑応答。

  1. Research Showcaseへの参加が今後のキャリアと研究にどのように役に立ちそうか

・「人前で発表する際に、心の落ち着きを手に入れる感覚と、「緊張をうまく利用する」感覚をつかむ良い訓練になった。原稿へのフィードバックは、他の人がどのように読むのか知る良い機会だった。また、二人からコメントを得られたのはよかった。二人とも指摘していたり、片一方の方のコメントがすごく参考になったりした。」
・「もっとも直接的には、自分の研究を英語で伝える際の表現方法を知ることができたことです。とくに添削で、おかしなところを修正していただくことで、他の人にも理解してもらえる英語表現をまとめて手元に残すことができました。〔…〕特に、数量的なデータを示すための表現は内容が変わっても応用が利くストックとなりました。また、「挨拶→イントロ→結論→ボディ→結論→挨拶」といった英語報告の型を経験することができたので、次の英語報告の機会に踏み出しやすくなりました。〔…〕」
・「〔…〕別の研究会で報告の機会をいただけたりしたのが直接的な影響。まわりの英語力が非常に高く、語学への危機感が出たのが一番の収穫。」

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まとめ

初めての大阪での開催は、皆さんの活発な議論により成功の裡に終えることができました。
報告者全員がこの日のために入念な準備を重ね、今後の進展が楽しみになるような興味深い報告を聞かせてくださいました。
また、学生も含め広くフロア全体から質疑の声が上がったことは、我々運営側としても嬉しい限りです。

今回の大阪での開催は、これまでの歴史家ワークショップの活動に共感してくださった関西方面の方々の協力により実現しました。
今回の成功を踏まえ、関西では早速次のワークショップの計画が始まっています。歴史家ワークショップの活動を支える輪はますます広がりを見せています。
その期待に応えられるよう、今後も様々な企画を打ち出していくつもりですので、応援をどうぞ宜しくお願いいたします。

最新の情報はTwitterから入手可能です。
(Twitterへのリンクはこちら

歴史家ワークショップでは、新しい運営委員を随時募集しています。
日本での歴史学研究を一緒に盛り上げていきたいという思いさえあれば、どなたでもご参加可能です。
少しでも参加に興味をお持ちの方は、お気軽にご連絡ください。心よりお待ちしております。

Research Showcase

2019年2月14日第7回リサーチ・ショーケース開催のお知らせ

7th Research Showcase
日時:2019年2月14 日 17:30-20:00
場所:大阪大学豊中キャンパス 法経研究棟605号室
地図:https://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/toyonaka/toyonaka.html

第7回Research Showcaseのプログラムの詳細がきまりましたので、お知らせいたします!以下のリンクをご覧ください(PDFファイルが開かれます)。

第7回Research Showcaseのプログラム

これまで東京を中心に行ってきたResearch Showcaseをついに大阪でも開催します!
今回の Research Showcase でも、発表者には発表を事前に準備していただき、当日各自の研究テーマについて8分という短い時間で、専門をかならずしも共有しないオーディエンスに、コンパクトにご自身の研究を伝えるプレゼンテーションをおこなっていただきます。発表とその後の質疑応答はいずれも英語でおこないます。

運営委員の4名も議論に参加します。
大学や専門分野をまたいで意見交換をしたい方、英語でのプレゼンテーションスキル向上を目指す方、今後Research Shoecaseでの発表をお考えの方は是非ご参加ください!

【発表一覧】

Hitomi Yoshida (Kyoto University)
“Historical Soundscapes and Town Musicians (Stadtpfeifer) in Late Medieval Nuremberg”

Yuichiro Hayashi (Kyoto University)
“A Prussian Officer and Confessional Refugees: The Admission of Huguenots’ into the Brandenburg-Prussian Army at the End of the 17th Century”

Kazuma Morii (Osaka University)
“Opponents of the Abolition of the British Slave Trade in the House of Commons, 1788-1807: Their Economic, Electoral and Political Interests”

Sachiya Mine (University of Tokyo)
“The German Custom Union and German Federalism: The Expertise and Network of Zollverein Bureaucrats in the Mid-19th Century”

Duim Huh (University of Tokyo)
“Science Textbooks in Occupied Japan: The Fame and Failure of ‘Busshō (物象)’ in the 1940s”

Kengo Suzuki (University of Tokyo)
“Preserving Cultural Properties from Archaeologists?: Japanese Social Movements for Preserving Cultural Properties during the High Economic Growth Period (1955-1973)”

Mengxing Yu (Kyoto University)
“The Pulp and Paper Industry in China since 1978: The Example of the Yangtze River Delta Economic Zone”

【連絡先】
Pierre-Yves Donzé (Osaka University)  donze[at]econ.osaka-u.ac.jp
Ai Hisano (Kyoto University)          aihisano[at]econ.kyoto-u.ac.jp
Steven Ivings(Kyoto University)       ivings.stevenedward.8a[at]kyoto-u.ac.jp
Koji Yamamoto (University of Tokyo)   kyamamoto[at]e.u-tokyo.ac.jp

*本イベントは、一般社団法人東京倶楽部文化活動助成金の支援を受けて実施されます。記して御礼申し上げます。

 

Skills Workshop

2018年5月20日「国際学会を有意義なものにするために」開催レポート

 

1. 企画概要・要旨

 2018年5月20日、第68回日本西洋史学会大会の2日目に、広島大学東千田キャンパス未来創生センターにてランチタイムワークショップ「国際学会を有意義なものにするために」が開催されました。立ち見をふくめ100人ほどの参加者を迎え、活発な議論が交わされました。

 本ランチタイム・ワークショップは、西洋言語(英仏独伊語)を用いた国際学会を、さまざまな形で経験されてきた3人の研究者から体験談を伺い自由な討論を行うことで、スキルと経験を共有し、外国語でコミュニケーションをする意義を考えることを目的としました。近年、日本の西洋史研究者と海外の研究者との交流はますます盛んになり、海外での史料・文献調査や来日する外国人研究者による講演会はもちろん、国内外で研究成果を外国語で発表することも求められてきています。しかし、日本語の発表内容をそのまま翻訳したのではうまく通じない場合があるのも事実です。では、日本人研究者が、国際学会で発表し、国際学界との交流を深めたいと願ったとき、どのような点に注意を払って報告を準備し、口頭報告をし、他の参加者と交流していくのが望ましいのでしょうか。日本語での報告との共通点・相違点は何でしょうか。国際学会における良い報告とはどのようなものでしょうか。また、本ワークショップは、日本の西洋史研究者が経験する国際的な学問的コミュニケーションのありかた自体について考察する場でもありたいと考えています。そもそも研究者を国際交流にうながす契機やモチベーションは何でしょうか。そして国際的コミュニケーションの経験は、どのように日本での研究活動にフィードバックされるのでしょうか。
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